寺院に響く妙音

午後から買い物に出かけた。ついでに、少し足を延ばして金沢文庫に寄り、「寺院に響く妙音」展を見る。展示品の大半は声明や雅楽の楽譜、といっても具体的な物としては一種の古文書で、漢文で書かれた経文や歌詞の脇に、博士(はかせ)という一種の図形記号を書き加えることによって、音程が示されているのだ。鎌倉時代の開山当時から江戸時代にかけて、称名寺と同文庫に収められ、または筆写された文書で、展示の大半は重要文化財に指定された文書だった。

                   

楽譜以外では、シンバルのような楽器(今も用いられているらしい)も展示されているが、図像の展示がほとんどないので、やや変化に乏しく単調という印象は否めない。それでも、4部に分けられた構成に従って、①声明入門、②仏を讃える、③年中行事と妙音、④伝承、の順に会場を巡り、各部の解説を併せて読んでいくと、寺院における声明や雅楽のあり方が、多面的・立体的に浮かび上がってくる。なかなか興味深く観ることができた。

また、1階展示室の冒頭に常設展示されている、ご本尊「弥勒菩薩立像」のレプリカのコーナーでは、この展示に合わせて、天台声明と真言声明がテープで流されており、実際の「妙音」を聴くことができるようになっている。空調の効いた館内で声明に耳を傾けていると、日頃のイライラや久々に戻ってきた暑さを忘れ、不思議に心が鎮まった。

せっかく訪れたのだから、称名寺の庭も一巡りすることにする。ここでは毎年5月の連休に、薪能が演じられている。2〜3年前のこと、開演後、にわかに激しい雷雨となり、シテ、ワキをはじめ、出演者一同に雨の飛沫がかかるし、観客もテントから雨水が漏れてきて、大変だったことがあった。演目は確か、江口の宿で身をひさいでいた遊女の霊が、その罪深さ故、成仏できずにいたところ、旅の僧のありがたいお経により、普賢菩薩となって往生を遂げるという話だった。あれ以来、雨が降りそうな時は、近くの公会堂を会場にすると変更されたが、幸いにも、実際に降られたことはないようだ。