結果は抽籤で

4月17日(木)、夕方から出掛け、九段下の某所で開催された研究会で発表する。内容は1930年代末頃に発表された瀧口修造の写真論の今日的意義について。10名くらいの小ぢんまりした会だったが、話が逸れるということもなく、何とか無事に終了した。
写真を専門とする学芸員・研究員の方も3名も来ておられ、なかなか深く鋭い質問をいただいた。勉強になったのはこちらの方だったようだ(いつも設営してくださっているWさん・Oさん、ありがとう)。
その後、近くの蕎麦屋で軽く打ち上げ、のつもりだったが、「軽く」では済まず、終電近くまで飲んでしまった。雨の中をトボトボ帰る。


4月18日(金)、午後から神保町の某書店に行く。先日に続いて番組制作会社のスタッフの女性が先に来ており、店主と話し込んでいた。どうやら仕入れに同行して取材したいと頼んでいるようだった。
「本は仕入れの時が一番難しいんですよ、仕入れの時が。それに比べりゃ、売る方がよっぽど気が楽ですね。ご希望が重なるような場合は少し面倒だけど、一見さんよりも馴染みのお得意さんを大事にするのは、まあ、どの商売でも同じでしょう。特に今回みたいな貴重書だと、後で美術館や文学館から借りたいなんていう話が出ることもありますから、よく顔を出してくださる方でないと、そういう話を通せないですから・・・。だけど仕入れの時は、特にまだお元気な方が手放される場合には、いろんな事情があるわけですからねえ。その事情やお気持ちをこちらが察してあげなきゃあね。関西あたりじゃあ今でも、本を売らなくてはいけないなんて恥だから、決して表に出したくないという方も多いんですよ」
「それはわかるんですけど、重々気をつけますから、そこを何とかお願いします。」「なら、話をおつなぎするだけはしてみますから、受けてくださるか、相手の方に直接相談してみてください」「それでもう十分です。ご無理を言って申し訳ありませんが、よろしくお願いします」こう言うと、スタッフの女性は帰っていった。
こんな話を聞くともなく聞いているうち、他の常連A君B君の2名と、長老格の常連Tさんも顔を揃えられた。いよいよ先日来の宿題の結果発表の時が訪れたようだ。懐中電灯を片手に店主が奥に入っていき、ゴソゴソと探しものをしている風だったが、しばらくすると、両手一杯に本を抱えて出てきた。早速、常連たちがまわりに群がり、その珍しさと状態のよさをしばし嘆賞しながら、どういう判定が下りるのか固唾を飲んで待ち構えた。
だが、店主は紙切れに何か書き込みを始め、なかなか結果を発表しない。手許のリストをもう一度チェックした後、「じゃあまず『白き婦人』からにするか。これは君とA君と、あと、手紙で申し込んできたCさんDさんだな。」と言うと、紙切れを4つ折りたたんで大きな紙袋に入れ、よく振ってからこちらに向かって「今日一番乗りだから、まず最初に」と、その袋を差し出してきた。
3人が異口同音に「えーっ!本当に籤を引くんですか?」と言うと、「そうだよ。はじめから『厳正な抽籤で』って言っていただろう?」と涼しい顔で言う。「そりゃそうですけど、さっきも取材の人に『一見さんより常連が優先』って言っていたばかりじゃないですか」「だけど今回は君達の間でもダブリが多いし、手紙をくれた方だってウチにとっては皆、大事なお客さんなんだ。その中で誰にどの本をなんて、オレが決められるわけがないだろう?」仕方がないので、渋々、その手作りの籤を引く。開けてみると「×」と書かれていた。次にA君が引く。紙切れを開けるや否や、大声で「あ、○だ!!」と叫んだ。
こんな風にして合計3回籤を引いたが、3回とも外れてしまった。「渋々」という気持ちが、如実に結果に反映したらしい。ちなみにA君は2回引いて2回とも当たり、B君も3回のうち2回は当たった。しかも私が外したのはすべてこの2人が当てたのだ。店主が半ばあきれ顔で「残念だったなあ・・・。でもまあ、君しか申し込んでいない2冊は君に回すから、今回はそれで勘弁してくれよ。」と慰めてくれた。「私しか申し込んでいない2冊を私になんて、そんなの当然じゃないですか!!」とブツブツ言ってみたが、結果は結果だ。仕方がない。
負け惜しみに「ツイているみたいだから、帰りに宝くじでも買ってみたら?」とB君に言うと、真顔で「いやツキがそちらに移ると困りますから、止めておきます」などと答えたので、思わず噴き出してしまった。この一部始終を脇でニコニコしながら眺めていた長老格のTさんが、「いや、面白かったなあ。次回は僕も参戦しようかな」とおっしゃったので、3人で口を揃え、必死に説得した。「いや、それだけは止めてください。当たる確率が下がったら困ります」
そのままTさんが、近くの文壇バー「○○の嘆き」に連れて行ってくださった。店を閉めてきた店主も合流し、ママさん手作りの肴と焼き鳥で、赤ワイン2本を空にする。さらに焼酎(芋)のロックも2杯追加して飲んだ。そこでは某大学の女子学生がアルバイトをしており、Tさんと店主はすでに顔見知りらしい。「ギャグとオヤジギャグはどう違うか」「なぜイジワルといわずにムカツクというのか」などと、続けざまに変な質問をして困らせていた。
それほど遅くまで飲んでいたつもりはないのだが、二日続けて御前さま、いや、午前さまとなり、しかも雨の中をトボトボ歩く羽目となってしまった。