渋谷から神保町へ

selavy2008-08-04

8月4日(月)、午後から外出。まず渋谷の東急文化村ザ・ミュージアムで開催されている「青春のロシア・アヴァンギャルド」展を見る。「ロシア・アヴァンギャルド」といえばその昔、池袋で開催された「芸術と革命」展を思い出す人も多いようだが(私などもその一人だが)、あの時の充実振りに比べると、少し見劣りするのはやむをえない。
今回展示されているのはすべてモスクワ市近代美術館の所蔵品だそうで、70点ほど。さまざまな傾向と可能性を内包しつつも、最終的に社会主義リアリズムに絡めとられていくロシア・アヴァンギャルドの流れが、この程度の点数で跡付けられるわけはない。
それでも、グルジアアンリ・ルソーといわれるピロスマニを見るのは初めてだし、ネオ・プリミティズム、立体未来派、シュプレマティズム、ロシア構成主義の画家など、興味深く見ることができた。初期のカンディンスキーや、ゴンチャローヴァ、エクステルなどの女流画家の作品も印象的。
多くの画家は1930〜40年代に亡くなり、長生きしたのはやはり海外に亡命した画家ばかりのようだ。マレーヴィチは1950年代まで生き延びたが、スターリンの時代は一介の測量技師となるほかはなかったという。それでも絵を描くことは密かに続けており、会場の最後に1930年代の自画像と夫人の肖像画が展示されていた。奇妙なほど具象的なのが、痛々しい。
入場料1400円に加えて図録が2300円もした。200頁以上あるから(22センチ四方の正方形のデザイン)それなりに充実しているともいえるが、怪態なカバーをかけ文字までカラー刷りにするなどというような、お金のかかることをせず、もっとシンプルな印刷・製本にして定価を下げるべきではなかろうか。(入場料と合わせて3200円がせいぜいだろう)
続いて渋谷区立松濤美術館の「生誕100年記念 けとばし山のおてんば画家 大道あや展」のオープニング・レセプションに出席。これはすごい展覧会だった。原爆の図で有名な丸木位里の妹にあたり、夫を亡くした後の60歳から絵を描き始めたそうで、いわゆる「日曜画家」のような作品を想像していたが、とんでもない。本格的な仕事で、こちらの不勉強を恥じるばかりだった。
特に地下の会場の入り口正面に展示してある「しかけ花火」(上図)を始め、描き始めたばかりの1970年代の絵は、いい意味でプリミティヴな、画面から溢れ出してくるエネルギーが感じられて若々しく、初々しいとさえいえる作品だ。80年代に入ると、絵本の原画を描き始めたことも関係があるのだろうか、少し落ち着きというのか、絵としてのまとまりが出てくるが、逆にありふれた作品のように感じられなくもない。それでもこの時期の「薬草」などは、傑作としかいいようがない。絵画として最高の水準にある作品といえるだろう。
2階の展示室の絵本の原画も、生命の輪廻を体現しているとでもいうのか、生きることの歓びも哀愁も率直に受け止めることのできるような気になってくる、素晴らしいものだ。60歳を過ぎてからでもこういう絵が描けるという事実だけでも励まされ、また勇気づけられる。ますますお元気で、ご活躍されるようお祈りしたい。
地下鉄で神保町に出て、某T書店へ。見てきたばかりの展覧会のことなどを話していると、常連の長老Tさんも来店された。二人に「大道あや」展の図録をお見せする。二人は顔を見合わせ、「60歳から始めてこういう絵を描けるとはすごいなあ。我々だって、今から始めて110歳まで生きればいいんだ」と、しきりに感心している。そのまましばらく展覧会や画家の生涯のことなどをお話したが、雲行きが怪しく、稲光りもし、遠くから雷も聞こえてくるので、6時を過ぎたところで失礼した。