原宿・新宿・竹芝

selavy2008-09-18

9月17日(水)。この日から始まる太田記念美術館の「浮世絵 ベルギーロイヤルコレクション展」の後期展示に行く。10時20分頃に到着したが、入り口付近にはすでに20〜30人くらいの観客が日差しを避けながら待っていた。開館と同時に行列が静かに中に入っていった。(皆、期待に胸を弾ませているのだが、逸る気持ちを抑え、先を争うようなことをしないところが、こういう展覧会らしい)
後期展示の見ものは何といっても春信だ。7〜8点も展示されたどの作品も、ピンクやクリーム色の淡い色調を美しく残しており、「錦絵」と呼ばれるようになったわけがよくわかる。写楽歌麿北斎、広重、国芳なども、それぞれその多くが展示替えされていた(写楽は前期の方が、状態がよい作品が多かったと思う)。北斎の弟子の昇亭北寿や柳々居辰斎の遠近法を強調した洋風風景版画、魚屋北渓や岳亭春信のエッシャーを思わせる静物版画(?)なども、印象に残る。大満足で会場を後にする。
(帰宅してから図録を見て、驚いてしまった。展示されていない作品がかなり掲載されているのだ。「全部見るには4会場をすべて訪れる必要があるかも・・・」という噂は、どうやら本当らしい。これは年明けには京都、ゴールデン・ウィークには日本橋まで足を運ばねばなるまい。)
ジャニーズ・ショップの二階の和食レストランで昼食。初めて入った店だが、天井が高く開放的でたいそう気持ちが良かった。料理も値段相応。今後、贔屓にしよう。明治神宮の森の中を通って代々木駅前に出、さらに左前方に進路をとって新宿西口方面を目指す。途中で新宿郵便局近くのフランスの図書の専門店に寄り、ブルトンのプレイヤッド叢書第4巻とアルバムを見てから、高層ビル街を抜けて、ようやく損保ジャパン東郷青児美術館に到着。かれこれ40〜50分は歩き続けただろうか。1階ロビーで一休みした後、「西洋絵画の父 ジョットとその遺産」展を見る。(図はジョット「聖母子像」サント・ステーファノ・アル・ポンテ聖堂附属美術館蔵)
「ジョット・ディ・ボンドーネ(1267年頃〜1337年)は、西洋史上初めて繊細な感情と立体的な肉体を備えた崇高な人間像を描き、三次元的な物語空間を生み出しました。それは西洋絵画の流れを大きく変えただけでなく、自然の探求者レオナルド・ダ・ヴィンチや、感情に生きたゴッホ、色と形を追い求めた20世紀のマティスなど、後世の画家たちがそれぞれの視点から立ち戻る原点であり続けました。」(同展チラシより)
展示されていたのは、(ジョットでは)壁画・祭壇画・ステンドグラスの実物が4点。壁画と祭壇画は、修復のためにその主要部を剥がして保存したものらしい。実物を見るのは生まれて初めてだ。遠近感や陰影を生で見ることができたのは有難い。テンペラで描かれた像全体に入ったヒビを見て、何となくコーネルの箱を想い出してしまった。
小さなパネルで掲示されていた聖フランチェスコ教会の壁画は、聖人フランチェスコの生涯やエピソード(小鳥への説法など)を描いたものだが、今まさに奇跡が起きている瞬間の驚異的な光景を視覚化した画面は、デ・キリコやエルンストなどを連想させた(われながらまるでシュルレアリスムの眼鏡をかけているかのようだ)。
後代の画家たちの(携帯用の小型)祭壇画や壁画もかなり点数があり、それなりに見ごたえがあった(シエナ派はもう少し点数が欲しい感じだが)。時間があれば、是非また訪れたい。(常設展示の中のセザンヌ静物画は、貸し出し中で見ることができなかった。少し物足りない気分だ)
新宿駅近くの百貨店で買い物をしてから、大江戸線で大門まで出て、竹芝の横田茂ギャラリーに行く。Barbara Rothというスイスの若い作家による「dancing earth」という企画展示。油彩・水彩画、写真を壁面に展開し、床の立体を組み合わせて構成した作品で、ある地点の風景・景観を展示室の空間に集約して再現したものらしい。ことに油彩・水彩の、青空と雲を描いた(?)繊細で微妙な色合いに感心した。
作家の名前を見直すと、どうやら女性のようだ。念のためスタッフのYさんに「女性の作家さんなのですね」と訊くと、「そうなんです。うちでは珍しいでしょう?」との答え。「横田は外出中ですけど、そろそろ戻ってきますから。いまコーヒーを淹れますね」「それじゃ、お言葉に甘えて」などと言っているところに、まさに横田さんが戻ってこられた。
見てきたばかりのジョットについて、特にテンペラの表面がコーネルみたいだったという話をする。そこから、次回の日曜美術館の取材を受けた話や、雅陶堂時代のコーネル展のこと、川村記念美術館のこと、瀧口修造のこと、南画廊のこと、エディシオン・エパーヴのことなどに話が広がった。久しぶりだったので1時間半ほど話し込んでしまった。5時半を過ぎにギャラリーを後にする。
JRで浜松町から御茶ノ水に出て、神保町まで歩き、某T書店へ。店主は仕入れのため北海道に行っているそうで、奥さんと太田記念の浮世絵展のことなどを話す。6時過ぎに店を出て、一旦、三省堂まで引き返し、一階のショップで、23日に予定されている某コンサートのチケットを購入。すずらん通り側に出て、そのまま九段下まで歩く。
ハンバーガー・ショップで腹ごしらえをしてから、付近で開催された某研究会に出席。この日はフランスに留学している若い女性研究者による発表で、テーマは1955年に開催された写真家エドワード・スタイケンの「人間家族」展について。この写真家、戦後に活躍した人だと思っていたが、何と1879年生まれとのこと。デュシャンよりも、マン・レイよりも年長で、第一次大戦に航空カメラマンとして従軍したこともあるそうだ。
この展覧会は欧米だけでなく世界各地を巡回し、56年には日本にも来たそうだ。展示には写真パネルが用いられており、会場全体がインスタレーションのようになっていたらしい。今は写真家の生まれ故郷でもあるルクセンブルグの古城に寄贈され、常設展示されている由。発表&質疑応答は9時前に終了。
その後、留学前からの古い知り合いである発表者の一時帰国歓迎会を兼ねて、2次会がセットされていたが、朝から歩き続けて、かなり疲れていたので、失礼して帰宅。すでにバスの最終便は出た後で、駅から家までとぼとぼ歩くはめになった。坂を上るのがかなりしんどかった。