素朴美の系譜

selavy2008-12-14

12月8日(月)、松濤美術館の「素朴美の系譜」展のオープニング・レセプションに出席。平安末〜鎌倉期の「華厳五十五所絵巻断簡」(重要文化財)、室町期の「長谷寺縁起絵巻」「かるかや」、さらに江戸時代の大津絵、白隠(右図)から仙崖に至る禅画、浦上玉堂、岡田米山人の南画などが並ぶ。「かるかや」は、図録によると、高野山善光寺を舞台とする苅萱道心と石童丸父子の物語を描いた、通称「奈良絵本」の中の一つで、「室町後期に展開された素朴様式の白眉」とされているらしい。絵本の原型のようなものだろうか。確かに心を打つものがある。
続いて近代の画家から横井弘三の作品がまとまって展示されていた。子供や家族を描いたものが多いが、いずれも素晴らしかった。画面の遠近感が独特で、「日本のアンリ・ルソー」と呼ぶ向きがあるのも頷ける。その中でも関東大震災後、傷ついた児童の心を癒そうと、各地の小学校に寄贈するために制作した200余点のなかの一作、復興児童に贈る絵「童心静物」に惹かれた。雑誌「子供之友」「婦人之友」などの挿絵の原画も、素晴らしいものだった。エナメルのような特殊な画材で描かれたらしい。他にも特殊な医療器具を用いて紙を焦がして描いた作品なども、興味深かった。代表作がほとんど失われたらしいとは残念なことだ。
入り口付近にもどると、長徳寺の六道絵、続いて芭蕉の発句自画賛「はまぐりの」と蕪村の「征馬図」も展示されていた。
2階は近代の画家・文人たちの作品だった。小川芋銭は当然としても、そこから小杉放庵、森田恒友、万鉄五郎、岸田劉生らが描いた南画へと続くのが面白い(森田恒友は先日の横浜美術館セザンヌ主義」展でセザンヌ風の風景画を見たばかりだ)。さらに梅原龍三郎中川一政熊谷守一へと続くのは、なかなか考えられており、説得力がある。
奥のコーナーに展示されている夏目漱石武者小路実篤などの絵も違和感なく見ることができる。「素朴」ということについていろいろ考えさせられたのはもちろんだが、全体にほのぼのとした雰囲気に満ちており、穏やかな気持ちに浸れる。年が明けてから是非また訪れたい。

12月10日(水)、知り合いのMさんとフェルメール展に行く。時間が十分にあると思い、午後から出掛けたのだが、会場に辿り着くと長蛇の列で、「ただいま1時間待ちです」とのこと。すでに一度見ているので、一人だったらたぶん諦めて帰ったと思うが、Mさんはまだだったので、そのまま列の最後尾に並ぶ。
ちょうど1時間ほどで会場内に入れたが、中は予想していたほどは混んでおらず、少し待ちさえすれば最前列で見ることもできた。Mさんは最初のヤン・ファン・デル・へイデンやファブリティウス、ホーホあたりですでにかなり興奮されていたが、やはりフェルメールの作品には感激もひとしおの様子だった。
その後、茅場町に行き、タグチ・ファインアートと森岡書店を再訪する。さらに日比谷線で六本木に行き、Mさんの友人3人と合流して、鈴木重子さんのライブを楽しむ。あまり好きなタイプではないので、それほど期待していなかったが、やはりプロの歌い手さんだけのことはあった。クリスマス・ソングやゲストの遊佐未森さんとのデュエットはなかなか聴かせるもので、終り近くの「マイ・フェバリット・シングズ」以降の数曲は文字通りの熱唱だった。地下鉄で浜松町駅に出て、JRで帰宅。