ローズマリーにラベンダー

1日は、4年前に亡くなった恩師の、お嬢さんの還暦のお祝いに、国立のお宅を訪ねた。実は去年の晩秋に、教え子たちがお祝いの会を開いていたのだが、私はたまたまある仕事の締め切りに重なっており、出席できなかったのだ。半年遅れのお祝いになってしまった。

この方は福祉関係のお仕事で社会的に活躍されているのだが、多彩な趣味をお持ちで、もちろん料理の腕も素晴らしい。

それほど暑くなかったので、庭の手前側の、大きな楓の樹の下にしつらえてある真鍮製のテーブルで、お昼をいただいた。見上げると手の形をした葉が幾重にも重なって、濃淡とりどりの緑のモザイク模様。隙間から初夏の陽光がこぼれ落ちてくる。

ハナミズキミモザ、モミノキ、ヤツデ、ジンチョウゲ、アオキ、ボタンなどの間を、薫り高い微風がわたっていく。

庭の中ほどには水場が設けてあり、小ぶりの岩の上部に穿った窪みに、古い竹の筒から水が滴り落ちて溜まっている。囲むように茂ったツバキやツツジの枝に、シジュウカラ、スズメ、ヒタキ、ヒワなどがとまり、鳴き交わしながら、水浴びの順番待ちをしている。

向こう側の薔薇のアーケードの上では、キジバトの番いが、周囲を見回しながら、ひとしきり体を寄せ合っている。やがて芝生に降りたち、草の葉を啄ばんだ後、互いに肯き合いながら、ゆっくり脚を進め始めた。新しく生えそろった羽は、葡萄色の中に蒼碧色がのぞいて、息を飲むほど美しい。

庭の外れでは、ちょうど咲き誇っている桜草に黒アゲハがとまり、翅をそよ風にあおられながら蜜を吸っては、また飛び立って次の花に移動している。

庭で摘んだばかりの各種ハーブのサラダと鱸のカルパッチョ、カマンベール・チーズの揚げ春巻き、神戸牛のステーキ、焼きたてのパン、自家製ショートケーキとハーブティーなどなど、手料理をご馳走になっているうち、すっかり長居をして、お宅を失礼したのは4時を過ぎた頃だった。