それでも銀輪は廻っている

昨日は京橋の近代美術館フィルムセンターの「発掘された映画たち2005」の最終日。「銀輪」を観る(上映時間12分)。(併映された「心の故郷」77分は、時間的に厳しくて観なかった)

これは日本自転車工業会の海外向けPR映画で(1955年制作)、監督:矢部正男・松本俊夫樋口源一郎、撮影:荒木秀三、特殊撮影:円谷英二、美術:北代省三山口勝弘、音楽:武満徹・鈴木博義。
錚々たる顔ぶれが並んでいるが、当時は皆30代前半くらいで、漸く頭角を現わし始めた若手という立場だろうか。

冒頭は、少年が"BICYCLE OB JAPAN"という絵本を見ているという場面。アンリ・ルソー風の頁の中にキリコの少女が出て来る光景は奇妙だ。やがて画面は、自転車の車輪、ハンドル、ボールベアリングのボールなどの様々なイメージに切り替わる。さらに画面の中を自転車に乗った女性や競輪の選手などが行き来する。いつしか少年も自転車に乗り、富士山の裾野の草原や宮島の水辺のような風光明媚な場所をサイクリングしているらしい。やがて夢から覚めた少年が絵本を閉じる、という流れ。

冒頭と末尾のシーンが説明的で、かえって不自然な感じがした。中間の抽象的なイメージの場面は、北代・山口のモビールやビトリーヌを想起させて、懐かしい。

武満・鈴木による音楽・音響は、中間部のミュージック・コンクレートの部分が、いかにも1950年代という時代を感じさせ、逆に冒頭と末尾の場面の、遊園地のBGM風の音楽は、新鮮かつ優雅に聴こえた。これは不思議だった。あの部分も武満・鈴木によるものだろうか。

「心の故郷」終映後、松本監督によるトークがあり、「冒頭と末尾の部分は、自転車工業会側の意向で加えられた」との解説があったそうだ。制作の当事者からすれば、不本意だっただろう。それでも、こうしたメンバーによる共同作業の結果が、完成された形で残されたのは、ありがたいことだ。

どうでもいいことかもしれないが、絵本のタイトルの
"BICYCLE OF JAPAN" は少し妙だ。語学的に言うと
"BICYCLE IN JAPAN" または "JAPANESE BICYCLE"
ではなかろうか。
「日本製の」という意味を強調したものだろうか。どなたか英語に堪能の方、ご教示をお願いします。