美術館巡りの旅

最近の低迷ぶりを見かねて、二人の友人が海岸沿いの美術館巡りの旅に誘い出してくれた。持つべきものはよき友だ。

鎌倉のチリーダ展。紙のレリーフ(?)「重力」シリーズしか見たことがなかったが、平面・立体とも素晴らしい。作品と周囲の空間との間に強い緊張関係が作り出されている。もともと作品とは空間内のポジであるはずだが、凝視しているうちにその関係が反転し、ネガである空間こそが作品ではないかと感じられる瞬間が訪れる。その反転する一瞬の感覚が心地よい。観客がまばらなのは、いかにももったいない。

逗子の某レストランチェーンの店。テラス席をわたる海の微風が気持ちよい。不思議な猫まで出現して、心温まる昼食となった。

葉山のジャコメッティ展。これだけ多くの作品をまとめて観るのは初めてだが、期待どおりの展示だった(逆に言うと、新たな発見がないとも言える)。作家をめぐる諸々の物語が若干煩わしく感じられるのは、チリーダを観た後だったためか。入館者はかなり多かったが、このうちどれだけの人が鎌倉本館を訪れるのだろう。

山口蓬春記念館。多数の植物のデッサンが興味深い。マチスを範とすることにより、日本画の新しい表現が開拓されたのは事実だろう。だが、失ったものも多かったのではなかろうか。

カスヤの森現代美術館の湯川雅紀展。ドイツで学んだ若き作家の個展だ。画面に出現している多数の楕円は、四角い平面と考えられている我々の視覚フィールドを、確かに相対化し、問い直しているように思われた。