YS-11の想い出

国産の旅客機YS-11が引退するそうだ。一度乗った時のことを、今でも鮮明に覚えている。

あれは富山近代美術館に「戦後美術と瀧口修造」展を観に行った時のことだから、おそらく20数年前ということになるだろう。この日はたまたま台風が通り過ぎた直後で、上空にはまだ強い風が残っていたようだ。美術館では先年亡くなった美術評論家東野芳明氏の記念講演が予定されており、東野氏もこの全日空の便に同乗していたのを覚えている。

羽田を離陸するときには何も問題がなかったのだが、富山空港に着陸するときに、(一般乗客にとっては)恐ろしいことが起きた。上空で着陸態勢に入り、北の富山湾の側から空港に入っていったのだが、一旦着地した後、滑走路を少し走行しただけで、再び離陸して再上昇し、山側で旋回して、逆に南の山側から着陸し直したのだ。おそらく後方から突風でも吹いたため滑走路が足りなくなったのだろう。しかも着陸のときも離陸のときも、今のジェット機のようななだらかな角度ではなく、かなりの急角度だったような気がする。体が受ける感覚はエレベーターの上下の動きに近かった。

最近のジェット機は、構造が柔軟で、機体や翼がきしんだりするが、YS-11の場合は、おそらく造りが頑丈なためだと思うが、しなったりきしんだりしない。あのときも機内では強風を全く感じさせず、最初はなぜ再び離陸して上昇するのかが、理解できないほどだった。やはりこういうところが、名機といわれる所以なのだろう。長い間。ご苦労さまでした。