長電話

12月某日、久しぶりにコレクターの大先達Kさんから電話があった。
「先週、銀座で画商のMさんと会ったら、このあいだselavyさんと忘年会をしたとおっしゃっていたので、電話したんだよ」
「そうなんです。先々週お会いして、すっかり盛り上がってしまいました。それにしてもお久しぶりですね。最近いかがお過ごしですか?」
「先月スペインに行ってきた。バルセロナに泊まって、日帰りでダリの別荘があったカダケスにも行ったよ。ちょうどシーズン・オフだったから、別荘にも予約なしで入れてくれた。それから海岸にも行ってきた。瀧口さんもおっしゃってたけど、風景がまさにダリの絵そのままだった。」
デュシャンに倣って、岩の上で、葉巻を持って両手を広げたポーズをとって、写真を撮ってもらいました?」
「いや、女房にも撮ってあげようかといわれたけど、葉巻を持ってなくてねえ。残念なことをした。でもスペインはいいところだから、一度行ってきたらいいよ」
「そうですね。ギリシア、イタリア、スペインには、是非一度行ってみたいです。ところで、最近、展覧会にはいらっしゃってますか?」
「昨日フェルメールを見に行った。まあ、あの展覧会はフェルメールさえ見ればいいようなものだから、すぐ出てしまったけどね。それからサントリーに行ったら、チケット売り場に行列ができていてねえ。諦めて帰ってきたよ」
「それは私もまったく同じパターンでした! フィラデルフィア美術館展にはいらっしゃいました? デュシャンが2点来てましたけど」
「いや、初期のタブローはもう十分見ているからね。スーラが来てれば行ったかもしれないけどね。」
「そういえばスーラは来てませんでしたね。ピサロは何点か来てましたけど・・・ 話は変わりますが、某画廊のご主人が認知症になったらしいですね」
「おや、それは初耳だけど、彼は昔から言動が怪しかったからねえ。もうだいぶ前から付き合わないようにしていたんだ。まあ、心配する人もあまりいないだろうなあ」
「ええ。ああいう人間にはなりたくないですね。おや、すっかり長電話をしてしまいました。またお目にかかりたいですね。」
「うん、また近いうちに」