若林奮と長谷川等伯

昼に浜松町駅でミク友ぱらんさんご夫妻と待ち合わせて、昼食をご一緒する。その足で横田茂Gへ行く。ここは本当に得難い空間だ。都会の喧騒を忘れ、などという常套句があるが、外部とは別の時間が流れているようだ。いまの展示は若林奮。98点の水彩画による「振動尺」ほか。いいに決まっている。

若林の1999年のインク・ドローイングのスケッチブックをオフセット印刷で再現し、体裁まで忠実に復元した《SKECH BOOK 1999》が東京パブリッシング・ハウスから発売されていた。限定500部2000円也。

ぱらんさんご夫妻とはここで別れ、有楽町の出光美術館の「新発見 長谷川等伯の美」展を見る。充実していた。

最初の部屋は水墨画のみ。「松に鴉・柳に白鷺図屏風」「波龍図屏風」「竹虎図屏風」。筆の多彩なこと! 特に「竹虎図屏風」の竹林の描写は、あの「松林図屏風」を思わせる。二頭の虎の描写も素晴らしい。

次の部屋は「四季花鳥図屏風」「萩・芒図屏風」。当時の光源と同じ角度からの、つまり下から当てられた照明が、金地に多彩な色彩を浮かび上がらせて、思わず息をのむ。これで銀が黒ずんでしまっていなかったら、そのきらびやかさはいかばかりだっただろうか!

俵屋宗達の一派と交流があったそうで、実際に「萩・芒図屏風」など、琳派を思わせる。「時代の美意識の要請」という会場の解説は、そのとおりなのだろうが、逆にこういう美意識を、等伯の筆が開拓した、とも言えそうである。

「日本の水墨画を集大成した画家であると同時に、狩野永徳と肩を並べる色彩豊かな襖絵の大家であり、さらには斬新な琳派の源流でもある長谷川等伯」という、大画家等伯の新しい姿が見えてくる。〇〇派の中からは、決してこういう大画家は生れてこないのだろう。「新発見」というキャッチフレーズはやや大げさだし、展示点数もそれほど多くはないが、会場を後にするのが惜しくなる、いい展示だった。

その後、神保町へ行き、新刊書を4冊買い込む。T書店に回り、1Fの店主と瀧口修造展のことなどをお話しする。2Fにも上がって、弟さん(洋書担当)ともおしゃべり。レヴィ・ストロースのペーパーバック300円也。

時間があれば表参道に廻ろうかと思っていたが、これですでに5時になってしまったので、そのまま家に帰る。