「夢の漂流物」展5

よい天気に誘われて、今日も世田谷美術館を訪れた。学芸員のSさんと立ち話。図録の売れ行きが予想をはるかに越えており、来場者の4割近くは買って行くそうである。

図録の完成が遅れに遅れ、3月26日になったのに、出来たら次々に売れてゆく。素晴らしいことだ。売り切れになるのが目に見えているので、対策におおわらわのようだが、問題が次々に発生するところも、瀧口さんらしい。

今日は展覧会場にちょうど高橋悠治さんもいらっしゃっていた。思い切って話しかけると、あの少しはにかんだような、皮肉っぽいような表情を浮かべて、応えてくれた。

前にお目にかかったときにも伺ったことだが、瀧口さんの書斎の写真に、高橋悠治プレイズ エリック・サティのLPのジャケットが写っているのがあるが、本人がプレゼントしたものではないそうだ。今日、改めて、そのことを確認できた。

その昔、銀座のコリドー街にあったバー「ガストロ」の、今は亡きマスターの証言では、瀧口さんがこの店を一緒に訪れた、いろいろな人の中で、一番気が合っていたように見えたのは高橋悠治さんだったそうだ。壁際の席で、ひそひそ、何か地下活動の重要な打ち合わせでもしているような雰囲気だったそうな。しかしこの話をすると、悠治さんはやや驚いた顔で「瀧口さんと行ったのは、一回だけだ」とおっしゃった。

いずれにしろ、こういう人と実際に会えて、口をきけるなどというのは、やはり瀧口展ならではのことだろう。ひょっとすると瀧口さんが仕組んでくれたことかもしれない、という気もしてくる。ありがたいことだ。