メセム属 超現実主義写真集

七夕の大市、といっても何のことやらおわかりでない方もいらっしゃるかもしれないが、正式には「七夕古書大入札会」という。古書の業界の一大イヴェントである。その目録が先日送られてきたので、何かめぼしいものがないかと思って見ていると、下郷羊雄『メセム属 超現実主義写真集』が載っていた。

これは名古屋で活躍した画家・写真家下郷が1940年に刊行した有名な写真集で、「メセム属」とはサボテンの分類上の属のことらしい。いわばサボテンの記録写真集である、というと、何の変哲もない一冊のようだが、全体を通じてある種の物質感に貫かれており、見るものは誰もが圧倒される。ブロッスフェルトの植物写真にも通じるだろう。

このサボテンの一属は、なかなか特徴的な、はっきり言うとエロティックな、女性の体の一部を連想させる形をしている。この点は、副題に「超現実主義写真集」と銘うってあるとおり、1930年代のシュルレアリスムが踏まえられている。私家版とはいえ、よくあの時代に刊行したものだ。日本の前衛写真を代表する写真集といっても、過言ではなかろう。

今回出品されているのは、かなり状態の良い一冊で、背のスパイラルの部分も、痛みが全く無いようである。出品業者が設定した最低入札額は100万円。高いか安いかは、神のみぞ知る、いや時間のみが決めることだ。

先立つものがあれば、私だってチャレンジするのだが、買うものが見える人には元手がない、というのが通り相場のようで、残念無念である。誰か私にコレクションを任せるという、奇特な人が出現しないものだろうか。