「無礼な!」

大先達のコレクターKさんに電話して、庭園美術館八木一夫展にお誘いしてみたら、「暑いし、あえて行かなくてもいい」と、振られてしまった。そこから話題は、最近までお茶の水あたりで開かれていた、ある催し物のことに移っていった。

「いやあ、セラヴィさんにこの話をすると、それ見たことかと言われそうなので、黙っていたけど、実は、とんでもなく無礼な目にあってね。久しぶりに怒ってしまったよ」
と、まだ残っている興奮を、努めて表に出さないようにしながら、話してくれた。だいたい、以下のようなお話だった。

先週、神田の古本屋に行ったら、「近くでこんな展覧会が開かれてますよ」と教えてくれたので、その足で寄ったら、展示品の中に珍しい作品が1点あった。値段は50万円と少し高めだったが、買うことにし、(持ち合わせがなかったので)店番の女性に「買うから」と言って、住所・氏名を書き残して帰ってきた。

するとその晩、その女性から電話があり、「あの作品は、画廊主が別の人に売る約束をしていたので、今回は売れません」と言うのだ。商談中の表示も無かったし、店番の人が申し込みを受けた時点で、契約は成立しているはずだ。法律的には違約金を払ってもらってもいいのではないか。百歩譲って穏便に済ませるにしても、画廊主自ら電話してきて、詫びるべき話だろう。

以前もあの画廊主には、別の人の作品で同じようなことをされた。今は大ブレークしたある女流画家の作品を買う話が成立し、月末までに金をかき集めて画廊に出向いたら、「もうその金額では売れません」と言うのだ。私が買うと言ったので、調べてみたら、その値段では少し安いということに気が付いたのだろう。今回も、たぶん私の名前を見て「50万円では安すぎた」と考えたのではないか。

その前には、ある作家の企画展をやるからコレクションから何点か貸してくれと頼まれたので、「非売ですよ」と念を押した上で貸したら、「どうしても買いたいという客がいるから、売ってくれ」と頼み込まれて、手放すハメになってしまった。

あの画廊主は、前から傲慢・尊大さが鼻につくし、インテリぶっている割には、作家についても作品そのものについても中味がある話が出来ない人だから、付き合わないようにしていたのだが、何か接点が出てくるたびにこんなことになるのだから、やはり人間性自体に問題があるのだろう。こういう人物が瀧口修造の名前を商売に使ったり、大学で教えたりするなんて、まったくもって噴飯ものだ。瀧口さんもさぞ悲しんでいることだろう…。