エリック・サティとジョン・ケージ

昨晩は横須賀のカスヤの森現代美術館で高橋アキさんのピアノ・リサイタルを聴いた。昨年5月に続き2回目となるものだが、会場は美術館の一室にしつらえられ、席が僅か60席しかないため、昨年は申し込んだときにはすでに "sold out" で、聞き逃していたのだ。

早めに家を出て、夕方の5時半に到着したが(6時会場6時半開演)、ピアノに近い席はすでに熱心なファンで埋まっていた。それでも前から3列目やや左よりの、指遣いがよく見える席を確保することができた(全体でも6列しかないのだ)。フランス製のピアノには既にボルトやフェルトが挟み込まれている。

ロビーに出てCDなどを見ていると、ちょうどアキさんが控え室から出て来られたので、ご挨拶した。(前にも何度かお話しする機会があったので、顔を覚えていてくださったのだ。ありがたいことだ)

「ピアノがすっかりプリペアドされてましたけど、何時間かかけられたのですか?」と伺うと「いやそんなに時間はかけませんよ。今日は15分くらいかな」とのこと。いつものようにざっくばらんな(同時に理知的な)話し方だ。ただし、後で美術館長の若江さんが語るところでは「調律師とともに、30〜40分ほどかけて、極めて精密かつ綿密に準備されていた」とのこと。

演奏が始まった。まず、ケージの「危険な夜」。プリペアド・ピアノを生で聴くのは確か初めてだが、ハープシコードガムランの中間のような、非常に繊細で精妙な音だと判った(今まで誤解していたが、認識を新たにした)。これは狭い会場ならではだ。

ここで普通のピアノに戻し、以下、サティの「ジムノペディ第2番」他3曲。休憩の後、タンゴを9曲。アンコール2曲。1曲ごとに、曲や作曲者にまつわる、アキさんの回想・解説が入る。(これも狭い会場ならではだ。)最後に演奏された早坂文雄の「写真」が、エピソードも演奏も哀切で、印象に残った。

演奏終了後、アキさんを囲んで立食のブッフェ。演奏中も演奏後も、表情や立ち居振舞いに華があって美しい。日頃の自己管理の賜物なのだろうが、デビュー当時の若々しさがそのまま保たれている。初対面なら10代だといっても疑う人はいないだろう。プログラムとCD2枚にサインをいただいた。

9時を廻ったので、名残惜しかったが引上げることにした。ピアノの間近で高橋アキさんの演奏を堪能し、お話しすることまでできた、極めて贅沢な3時間半だった。