新宿・早稲田・神保町

午前中に家を出て、新宿は損保ジャパン東郷青児美術館の「プラート美術の至宝」展に行く。目下、改装中の、プラート市(フィレンツェの隣)美術館の所蔵品を中心とした展覧会で、フィリポ・リッピ、ウッチェロなどが来ているという。しかも10月1日は感謝デーのため、入場料が無料になると聞いて、狙っていたのだ。

朝、開館と同時に入るつもりが、手間取り、到着したのは昼頃になってしまった。美術館の周りにはすでに十重二十重の人垣ができ……、と思いきや、意外なことに、そのままあっさり入れた。会場もそれほど混んでいなかった。実にありがたかった。

プラートには、聖母マリアが被昇天の際に使徒トマスに与えた「聖帯」の実物が、その血縁の商人によって後に寄進され、今でもこの都市の精神的な拠り所・シンボルとして、大切に受け継がれているそうだ。展示も聖母マリアと「聖帯」にまつわる主題のものが多かった。

その中で、やはりフィリッポ・リッピとフラ・ディアマンテの「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母」や
「聖ユリアヌスを伴う受胎告知」が素晴らしかった。

前者に描かれた聖女の顔は、リッピの恋人、つまり一緒に駆け落ちした修道女に似せて描かれた、とも言われているそうだが、確かにリアルで、抽象化されておらず、そう考えられるのも当然だろう。こんな美人なら、すべてを捨ててもいいとリッピが思ったとしても、不思議ではない。

1点だが、ウッチェロも来ているし、その他の宗教画・祭壇画の数々も、たぶんプラート市まで行かなければ、もう観ることはできないだろう。いい作品を拝見できた。

マニエリスム期以降は、フレスコやテンペラが減ってカンバスの油絵が多くなる。当然、「作品」としての完成度は上がっていくのだが、逆に面白さは薄れているような気がした。このあたりが絵画というものの不思議なところだ。ただ、いくつか展示されていた聖人の肖像画は、この春上野で見たラ・トゥールへの繋がりも窺え、興味深かった。

常設の東郷青児グランマ・モーゼスは、こういう展示の後に観たくはない。それに、いつも感じるのだが、ご自慢のゴッホゴーギャンセザンヌのコーナーの照明と壁の青色は、もう少し何とかならないものか。水族館でもあるまいし、せっかくの「ひまわり」が、妙な、人工的な色に見えてしまう。セザンヌゴーギャンには、許容範囲内だろうが…。3点とも水彩ではなく油絵なのだし。

出口で「プラート美術の至宝」展のパンフレットをいただこうと思ったら、セットにして800円で販売していた。ウーム、こういうやり方もあったか。ちらしセットは寿司屋のランチだけでいい。図録も2000円では、手が出なかった。まあ、タダで素晴らしい展示を見せていただいたのだから、これだけでもう十分。感謝しなくては。

お隣りのビルのインド料理店で昼食にした後(焼きたてのナンが、大変おいしゅうございました。おかわり自由!)、早稲田の古本市に回る。一心堂が閉まっていたのは痛かった。隣の安藤書店を覗く。やはり早稲田は文学関係の品揃えが充実している。その後、神保町に回り、T書店でしばらく立ち話をする(野球の話は避けたが)。

知り合いと出合ったので、一緒にサボウルでビールを飲むが、椅子が低く、空間も狭くて落ち着かない。ランチョンに河岸を変えた。夜、帰宅。