日本橋から九段下へ

三井記念美術館の開設記念特別展Ⅰ「美の伝統 三井家伝世の名宝」を観るため、日本橋まで出かける。標題のとおり歴史の厚味を感じさせる、充実した展示だった。

陶磁では、志野茶碗「銘卯花墻」、黒楽茶碗「銘俊寛」、黒楽茶碗「銘雨雲」、大名物「三好粉引」、伊賀耳付花入「銘業平」など。
絵画などでは応挙「雪松図屏風」、応挙「水仙図」、定家「熊野御幸記」など。
能面では秀吉遺愛の「小面」、「孫次郎」など。

素晴らしいものばかり。国宝が3点(11月17日からの後期には、展示替えで別の3点が出品される予定)、重要文化財、重要美術品は何点あったのだろう。数え切れない。

三井十一家の、どこかの当主(名前を失念)が昭和期に集めた切手のコレクションにも感銘を受けた。極めて学問的に、系統立って集められており、これは並み大抵のものではない。その道では知らない者のない有名なコレクションなのだろうが、脱帽というしかない。

建物自体が重要文化財である、三井本館の中(7階)に展示室があるのも、こういう所蔵品に相応しい。建設当時のままではないのだろうが、エレベーターや展示室の内装には木が使われ、重厚な雰囲気が醸し出されている。

展示内容が素晴らしいだけでなく、美術品を集める意味、パトロンやコレクターの役割、美術館の成り立ちなどなど、いろいろな面で考えさせられる、意義深い施設だ。都心にこのようなスペースが出来たのは、美術愛好家として喜ばしい。頻繁に足を運ぶことになるだろう。

続いて、お隣の三越で開催されている「三井家伝来の能装束展」を観る。「伝来」というと室町時代からの、と考えてしまうが、大半は明治・大正・昭和期のものだった。三井家の当主たちは代々、茶と能を嗜んだそうで、その際に使用されていた装束を展示したもの。これも見応えのある展示だった。

このような装束を織る技術は、今や風前のともしびなのではなかろうか。欧州に音楽留学をする人は続々といるのに、こうした重要な技術に後継者が居ないとすれば、極めて残念なことだ。

その後、九段下のNIKIギャラリー冊で開催されている「野中ユリ―本の小宇宙―ミクロコスモス」展を観る。近作の黄色のタブローにコラージュが配された「天使のシリーズ」の一点が特に印象に残る。お元気になられたようで、何よりだ。ちょうどフランス文学者のI先生も来ておられたので、ご挨拶した。

神保町に廻り、いくつか買い物をしてから、帰宅。