白金・麻布十番・竹芝

庭園美術館で「庭園植物記」展を見る。

チケットやポスターに東松照明の「ゴールデン・マッシュルーム」が使われているので、戦後の写真家の植物写真を集めた展覧会かと思っていたが、そうではなかった。

まず会場に入ると、高橋由一の植物図譜稿が目を引く。他の画家のもそうだが、この頃の図譜は精密で素晴らしい。牧野富太郎の図譜も、印刷された図鑑などではよく見るが、実物は初めてだ。さらに、南方熊楠のキノコの標本があった。これには圧倒された。英語でビッシリ書き込みがあり、熊楠という人の精神のあり方の一端が窺えたような気がした。

いけばなの写真、現代の写真家の写真も、それぞれ考えさせられた。撮影されているのは、花ではなく、時間なのではないか。これは花という被写体ゆえなのか。
プラチナプリントという聞きなれない技法を用いる井津建郎さんの写真は、はじめてみるものだが、心を打つ静謐さだった。

雨あがりの庭園も、期待に違わず美しかった。緑が鮮やかだし、空気も清清しい。芝生では、若いお母さんがシャボン玉を作って、子供を遊ばせていた。そよ風に乗ってふんわりと流されていく無数のシャボン玉を、ヨチヨチ歩きで追いかける姿が愛らしい。

最近、あるマイミクの方が、「若返りキャンペーン」(笑)と称して、幼い頃の写真をアップしておられたのを思い出しながら、あんなに楽しそうにしていても、この日の記憶は、写真にでも撮っておかなければ、子供には残らないのだろうな、などと考えたりした。

地下鉄で麻布十番まで行き、橿尾(かしお)正次展を見る(ギャルリーMMG)。橿尾さんは和紙を用いた立体の作家で、福井在住。ご本人から、突然ご案内いただいたもので、これも瀧口さんの導きだ。東京では9年ぶりの個展だそうだが、立派なお仕事だ。
今回、画廊主益田さんの勧めで初公開されたドローイングが、アルプやクレーを思わせ、さらに筆の線が日本人であることも感じさせて、ことに素晴らしかった。

このドローイングに注目する人は、あまり居なかったそうで、益田さんとは初対面だったが、すっかり意気投合。画廊経営のこと、ジャーナリズムのこと、作家さんのこと、瀧口さんのことなど、1時間近く話し込んでしまった。おかげで、九段下の野中ユリ展、溜池山王のゼログラフィー展に回る時間がなくなってしまった。

その後、地下鉄で大門に出て竹芝まで歩き、中西夏之静物 1972 復習」展を見る(横田茂ギャラリー)。静物と復習、見て納得できるタイトルだ。こういう系統の仕事もしておられたとは、今回初めて知った。
初日で、中西さんご本人も来ておられたので、ご挨拶した。このギャラリーにこれほど人が押しかけるのは、中西さんならではだろう。古い知り合い二人にも何年ぶりかで再会できた。