人生を変える本

夕方買い物に出たついでに、本屋で立ち読みをする。文藝春秋の増刊で「私の人生を変えた一冊の本」とかいう増刊が出ていた。目次にざっと目を通したが、パスだった。

私自身のことを振り返ると、そういう本は『瀧口修造の詩的実験1927〜1937』か、あるいは『シュルレアリスムのために』だろうか。

「人生を変える」というのは、やや大仰な言葉で、特効薬や整形手術でもあるまいし、本を読んだために急に生き方が変ったりするかというと、そんなことはないと思うが、仮に読まなかったとすると、もっと別の生き方になっていたはずだ、ということは言えると思う。若いときにこういう本にめぐり合えたのは、幸運だった。

瀧口修造自身は、三一書房の高校生新書「私の人生を決めた一冊の本」の中で、ブルトンの『シュルレアリスム宣言』を挙げている。そして「これは危険な本だから、詩人になろうとする人は近寄らない方がよい」という意味のことを述べていたはずだ。

無人島に持っていく一冊」というようなアンケートもよく見かけるが、こちらは「人生を変える一冊」よりは考え易い。大冊で、繰り返し読むに値し、深い内容を具った古典ということになるだろう。答えは大体予想できる。

まず得票数の多いのは、「聖書」「アラビアン・ナイト」「三国志」「史記」「神曲」「デカメロン」「カラマーゾフの兄弟」「戦争と平和」「失われた時を求めて」、日本のものなら「万葉集」「源氏物語」「正法眼蔵」あたりだろうか。

プラトンの対話篇や、ヘーゲルマルクスシェイクスピア老子荘子、さらには仏典を挙げる人もいるかもしれない。ニーチェフッサールフロイトあたりは、おそらく入ってこないだろう。マルクスを挙げる人も今は少ないかもしれない。

いやその前に、今や本ではなくてネットの時代だから、こんなアンケート自体すでに時代遅れで、若い人たちの間では、もはや本を読むという習慣が廃れてしまったのかもしれない。

別に無人島で暮らす気はさらさら無いが、私はネットよりは、やはり本だ。しかも私はこうした本をほとんど読んでいないので、これからの楽しみには事欠かない。単に不勉強ということかもしれないが。