鎌倉・逗子・葉山

午前中に家を出て、神奈川県立近代美術館山口勝弘展を観る。

第一展示室は、1950年代のヴィトリーヌやAPNの構成などを中心に、その前後の40年代の油彩、デッサンや、60年代のインスタレーション、オブジェなどが展示されている。

第二展示室は最近の「宇宙」のシリーズや、どうやら自画像らしい「無題」のアクリル作品など。70代後半に入ってから、しかも一度脳血栓で半身不随になりながら、このような若々しい、エロティックといってもいいほどの作品を制作し続けるとは、すごいエネルギーだ。

第三展示室はヴィデオ・アートが中心。池に面した窓辺に武満徹の音楽に寄せた"WAVE LENGTH"が展示してあるのは、なかなか良い。「ラス・メニーナス」では、カメラにポーズを取って、画中の人物の仲間入りをしてみた。

それぞれの時期の作品は、もちろん個々に見たことがあるが、こうして初期から近作までを通して観ると、やはり一貫した問題意識が感じられる。

骨折のため、中原佑介磯崎新松本俊夫の各氏の連続講演会を聴講することができなかったのが返す返すも残念だ。でもまだ映像作家小林はくどう氏の講演があるので、これはぜひ聴きたい。

カフェで遅めの昼食にする(ドライカレー・セット)。ここはあまり混まないのがありがたい。テラスの席に座ったので、雨上がりのようなひんやりした空気が気持ちいい。ただ、この季節は花粉がつらいのだが。

池のほとりの大木のてっぺんには、白鷺のつがいが停まっていた。時折、池を吹き渡る風に乗って舞い上がり、上空を飛んでいた。

駅まで戻り、逗子に出て、バスで葉山館へ回る。

続いて、神奈川近美葉山館で、ドイツの女流画家パウラ・モーダーゾーン=ベッカー展を観た。この画家の絵は、確か世田谷美術館所蔵の作品を観たことがあったはずだと思うが、こうしてまとまった形で観るのは初めてだ。

人物画、風景画、早すぎた晩年の静物画。どれも素晴らしかったが、特に静物画はセザンヌからキュビスム、さらにフォーヴィスムへと発展するあたりに位置づけられそうで、面白かった。

掲示された年譜によれば、その生涯は以下のようなものだ。

1876年生まれ。10代の頃から画家を志望。女性も自活すべしとの父親の方針もあって、20歳を過ぎた頃にブレーメン近郊の村ヴォルプスヴェーデの芸術家コロニーに入り、本格的に画家への道を歩み始める。

初期にはドイツの画家らしく暗い色彩で人物画や風景画を描いていた。1901年にコロニーの一員である画家オットー・モーダーゾーンと結婚する。

何度かパリとの間を往復する間に(林忠正の浮世絵コレクション、セザンヌゴーギャンの作品に触れている)、単純化した形の組み合わせと鮮やかな色彩による画面の構成に向かう。

ところがこの方向性は、夫から理解されず、離婚を考えるところまで悩んだが、詩人リルケや彫刻家ヘットガーなどの支援・激励を受けて、探究・制作を続け、何とか家庭生活とも両立させたようだ。

1907年、長女を出産後、産褥熱のため、惜しくも31歳の若さで亡くなった。

こうした生涯を念頭に入れて、再び作品を観かえしていると、何というのか、胸がいっぱいになってしまった。

特に初期から晩年までに何点か制作された自画像は感動的だ。これを観るだけでも十分訪れる価値がある。

降り始めた雨と強風の中を帰宅した。