久しぶりに外出

足を引きずりながら、久しぶりに東京まで出かけた。

12時過ぎに神保町に到着。救世軍脇のベンチでおにぎり3個の昼食を摂った後、T書店をのぞくと、通路が本で溢れかえっている。聞けば、朝5時に店を開け、仕入れを2軒こなしたそうな。

ややお疲れ気味の店主と、お茶を飲みながら四方山話。最初はもっぱら私の骨折の話題だったが、やがて例の「流出物」へと移っていった。

といってもAVの話ではなく、ある古書店の目録に有名作家M氏の肉筆原稿が掲載されたことに対して、M氏本人が問題提起したという話だ。ここ数日、マスコミの取材で大変だったそうな。

当初は取材に対する古書組合側の応対がまずかったので、古書店側が悪者になりかけたが、やっとのことで統一見解をまとめて巻き返したそうだ。

その見解は
「有名編集者から出る肉筆原稿については、すでに著作権者との話し合いがついているからこそ、持ち込まれてくるものだと思っていた。今回も、原稿は有名編集者の故Y氏の筋から出たもので、古書店としては、今頃問題になるとは思いもよらなかった」というもの。これなら、それなりの説得力はあるだろう。ただし、こうした対外的な見解の裏で、組合員には「だから現存作家の肉筆は取り扱いに注意しろ、と前から言っていただろう」と、再度注意喚起した由。

「一緒に昼メシでもどうだい」と誘われたが、すでに食べた後だったので、残念ながら辞退した。いつもは2時頃のはずだが、今日は朝が早かったので、昼食も早めにということらしい。専門書を2冊購入してから2階へ。

2階でもやはり、私の骨折の話題が中心だった。
「今年退官する某仏文学者の蔵書を引き取ってきた」との話だったが、未整理だったので、次回に期待しよう。

地下鉄で茅場町まで行き、タグチ・ファインアートの、中川佳宣「薹(とう)」を観る。今日が最終日だ。タグチさんご夫妻とひとしきり話し込む。他の取り扱い作家の作品も倉庫から出してきて見せてくれた。

京橋に回り、まずギャラリー・東京ユマニテ加納光於「充ちよ、地の髭」展を観る。ちょうど加納さんご本人と、造形作家の岡崎和郎さんが来廊されていた。

私の骨折ばかりか、加納さんは風邪気味、岡崎さんは「五十肩」だそうで、ひとしきり健康ネタで話が弾む。
(岡崎さんが「五十肩」とおっしゃったので、加納さんと顔を見合せて、思わず笑ってしまった。すると岡崎さんは律儀に「いやいや七十肩か…」と訂正された。それで、ますます笑ってしまった)

その後しばらく、展示してある箱の作品「アララットの船」などについて、奥の部屋でお話しを伺う。箱が黒いヴァージョンは1点しか制作しなかったそうだが、これは大岡信氏所蔵とのこと。
「もっと黒いのを作っておけばよかった…」
制作された当初の価格は25万円で、売れなくて困ったそうだが、いまから振り返ると信じられない話だ。今や300万円は軽く超えるだろう。

その足で、ギャラリー椿の「封印された星」展を観る。巌谷國士さんに宛てた瀧口修造のデカルコマニーや私信が展示してあるコーナーが良かった。その隣には、デュシャンの遺作を覗いている瀧口修造の後ろ姿を描いた中江嘉男上野紀子さんのタブローも展示してある。この一角は瀧口修造とのつながりが感じられる。

なかなか立ち去り難かったが、後ろ髪を断ち切って銀座に向かう。ギャラリー「オリーヴ・アイ」で「岡野聡子展―時の狭間―」を観る。ちょうど岡野さんご本人が居て、デカルコマニーの技法の位置づけなどについて、いろいろお話を伺った。

最後に美術関係者のMさんと落ち合い、軽くビール&ワイン。帰宅したのは8時近かった。