茅ヶ崎・辻堂・藤沢

午後から外出。茅ヶ崎市美術館初の企画展「北斎・広重の湘南―風景と人物」を観る。道中、JRの車窓から何本かの松の木が見え、「いかにも湘南だ」と感じる。茅ヶ崎駅を降りると、すぐに一戸建ての家が並ぶ住宅街になり、松の木が植えられている庭も目に付く。別荘地だった面影がかすかに残っているようだ。駅から歩いて7〜8分のところに、高砂緑地というこんもりした松林がある。ここはかつて川上音二郎が別荘を構えた場所で、今は図書館・公園として整備されている。その中の小高い築山の上に、コンクリート打ち放しの瀟洒な美術館が建てられているのだった。

展示点数100点余りと聞いていたので、期待していた。が、前・中・後期と展示替えがあり、実際に見ることができたのは30点ほど。少し物足りなかった。それでも広重「東海道五十三次」の「箱根」や、北斎富嶽三十六景」の「相州仲原」などを観ることができたので、良しとしなくてはいけないだろう。広重「東海道五十三次」の「平塚 馬入川舟渡しの図」も展示されていた。茅ヶ崎の松林から相模川の渡しの向こうに大山と富士山を望む、巧みな構図。大山が山岳信仰の聖地だったことは承知していたが、博打の守り神として、勇み肌の博徒たちがこぞって参拝していたとは、知らなかった。これは私ももう一度、お参りしな直さねばなるまい。

       

20分ほどで見終り、地下の茅ヶ崎市在住の作家さんの展示も拝見したので、2階の喫茶店でビールでも飲もうと思ったら、アルコールを置いてなかった。仕方なくコーラを注文すると、えらく手間取っている。この店のウェイトレスさんの遅めの昼食を先に作っているのだった。かなりの音量で流しているラジカセのFM(ヒットチャート番組)も耳障りな感じ。道理で私しか客がいないわけだ。眺めのよい店なのに、残念なことだ。

意地でも美味いビールが飲みたくなり、辻堂寄りの裏通りにある喫茶店に行くことにする。某レコード会社のディレクターが趣味で経営している店で、これまで自分が聴いてきたLPレコード1万枚以上を棚に収め、好きなものを自由に聴かせてくれるのだ。主な音楽雑誌のバックナンバーもそろっている。先客の常連さん2名がカウンターに陣取り、ブルースのことか何かを話していた。よく冷えたギネスを飲みながら、しばらく音楽雑誌を拾い読みする。暑い中を40分ほど歩いた甲斐があった。

バス道路沿いに辻堂駅に戻る途中で、いかにも気になる店構えの古本屋さんがあった。誘われるように入ると、中は間口から想像したより2倍は広い。アダルトや実用書の類は一切置かず、文芸書・芸術書・思想書・文庫・新書のみ。なかなか硬派で見事な品揃えだ。「現代詩手帖」のバックナンバーを1冊購入する。この店にはまた来て見たい。

JRで藤沢に戻り、遊行通りのS文庫を訪れる。最近閉店した伊勢佐木町の古本屋さんのこと、ブックオフのこと、仕入れのネットワークのこと、さらにはある古書店のネット上の目録のことなど、店主と1時間ほど話す。奥から戦前の「キネ旬」の素晴らしい状態の号を出してきて、見せてくれた。「ユリイカ」のバックナンバー1冊と、文庫本2冊を買う。「他の儲けるところで儲けてますから、いいんですよ」と言いながら、かなりまけてくれた。この喫茶店・古本屋・古本屋のルートはなかなか収穫が多かった。レギュラー・ルートにして、数ヶ月に一度廻るのも良いと思った。

帰宅すると、上述のネット上の古書店の目録をわざわざ知らせて下さった方がいた。以前の日記にコメントしてくださった方もいた。どうもありがとうございました。