日ノ出町・黄金町・伊勢佐木町

午後から横浜市中央図書館に行く。調べ物がいくつかあったのだが、早めに切り上げ、帰り道に伊勢佐木町を訪れることにする。ここは古くからの商店街で、黄金町駅前から関内駅までの約2kmほどの間に、古本屋さんも7〜8軒ほどある。ある知り合いの方から「最近訪れた」と聞き、また別の方だが、同じルートを巡ったというblogも拝見していた。その上、藤沢の聖智文庫さんとの話題にも出ていたので、久しぶりに寄ってみたくなったのだ。

最初の3軒では特に買うものが無かったが、長者町の角に近いN書店は、文学・美術・思想書を取り揃えてあり、品揃えがピタッと来た。通路には、仕入れたばかりと思われる雑誌の束が重ねてある。戦後間もない頃の各種映画雑誌やシナリオのようだ。これは是非見てみたい。だが、いきなり「解いてくれ」と言っても、「まだ値をつけてません」と言われる可能性があるから、まずは他に何か買いものをしてから、という訳で、「ユリイカ」と「現代思想」を3冊ほど買う。1冊5〜600円だから、値段もまずまずだ。店番の若い男性に「あの束を見たいんだけど・・・」というと、あっさり「いいですよ」と応え、カウンターまで運んできて、はさみで紐を切ってくれた。

この時期の雑誌はどれも、紙質が悪い上、ホッチキスの綴じも錆びているので、痛めないように神経を使う。10冊ほど見たところで、1947年11月の「映画春秋」を見つけた。瀧口修造が「その後の、そして最近の前衛映画」を寄稿している号だ。束の残りを最後まで見たが、結局、買うのはこの1冊だけだった。「いくらですか?」と聞いてみると「そうですねえ・・、じゃあ500円で」という。これは久々の収穫だ。

商店街はずいぶん様変わりし、古い店の中にはゲーセンやコンビニなどになってしまったところもある。だが「蛇屋」という漢方薬の老舗は健在だった。2匹のコブラがショーウィンドウの中で、昔とまったく同じポーズで鎌首をもたげている。剥製とはいえ素晴らしい持続力だ。長者町の交差点の右側の雑居ビル「オデオン」にもS堂という店が入居していたはずだが、案内板を見ると、すでに中古ビデオ・CDの店に変わったらしい。そのままパスすることにする。交差点を渡るとすぐ左に、I書房という店ができていた。思想書や文庫本が充実している。若い人が経営しているようだが、なかなか頑張っている。ここでも「現代思想」を1冊購入。

さらに商店街の先の、左側のビルの2階にも別のS堂という店があったはずだ。階段を上がった右手の入り口の脇に「当店は学術書しか置いてません。ひやかし・立ち読みお断り」と貼紙を出すようなところで、そのとおり、宗教書・歴史書思想書語学書などが充実していた。だが階段に店の立看板がしまい込まれ、店内を窺うと明かりも消えている。やはり噂どおり店じまいしてしまったらしい。最近できた○○○オフから距離が近いとはいえ、あまり客層は重ならないと思うのだが・・・。残念なことだ。

その○○○オフにも寄ってみた。あれだけ量が豊富なら、買うものがあるはずだが、今日は棚にざっと眼を通すだけにしておいた。斜向かいの新刊書店Y堂に寄り、最近の学術系文庫をチェックする。そういえば、先月からの新刊を買っていない。A.アルトー「神の裁きと訣別するために」の新訳は、平台に何冊も置いてあるので、次回に廻す。C.フーリエ「愛の新世界」や新しい「ランボー全集」を捜してみたが、見当たらないようだった。横浜を代表する書店のはずだが、これはちょっと寂しい。いずれ横浜駅ビルの店か、神田に出たときに買うことにしよう。

Y堂から商店街に一歩踏み出すと、どこからともなくカレーの匂いが漂ってきた。急にお腹が減ってきてしまった。文字通り眼と鼻の先にカレー・ミュージアムがあるのだった。といっても、今日は本でだいぶお金を使ってしまったので、夕食は家で済ませることにする。すぐ近くのパン屋さんの前を通りかかると、今度はパンを焼く香ばしい匂いがしてきたので、ふらふらと誘い込まれ、焼きたてのバゲットを買ってしまった。サンドイッチを作ることにして、近所のスーパーでハムとレタスを買ってから帰宅した。