両国・神保町・横浜

15日、両国の江戸東京博物館で開催されている「始皇帝と彩色兵馬俑司馬遷と『史記』の世界」展を観る。ある人から頂いた招待券の有効期限が15日までだと、当日の昼まで気が付かず、慌てて駆けつけたのだ。

タイトルからすると、秦の始皇帝兵馬俑に関する、考古学的な資料と『史記』の文献学的な考証とをクロスさせた展示かと思ったが、そうではなかった。そもそも兵馬俑は、秦の始皇帝の専売特許ではなく、後代の漢の皇帝たちのためにも造られていたそうで、今回の展示も秦から漢代まで及んでいる。『史記』は、この時代の流れを貫く縦糸の役割を与えられているのだった(実際の展示も、慶應義塾大学斯道文庫蔵の『史記』の写本と木版印刷本から始まっていた)。展示全体に物語の流れが出来て、奥行きが広がったように感じられた。

とはいえ、今回の展示の目玉は何と言っても、最近発掘され、世界初公開となる、秦の始皇帝のため「彩色兵馬俑」だ。片膝をついて大型の弓を射るポーズを取った紀元前3世紀の遺物で、顔の顔料などは約2300年を経ているのに、よく残ったものだと思う。

それにしても、秦から漢へと時代を下るに応じて、兵馬俑が小型化し類型的になっていくのは何故だろう?漢代では裸体の姿で造り、そこに着物のミニチュアを着せていたそうだが、次第に人形か玩具のようなものに近づいているという印象を受ける(日本の埴輪はこの果てに出現するものかもしれない)。これに対して、秦の始皇帝兵馬俑は、実物大の姿がおどろおどろしい上、細部までリアルで圧倒的だ。逆に青銅製の水鳥などはあくまでも愛らしい。このような造形が生み出されたのは、やはり始皇帝の権力の強大さと意志の強靭さ故なのだろうか。

会場内部でも随所に平面ディスプレイが設置され、解説番組が流されていたが、会場の最後の部屋では、大型ディスプレイで、秦の始皇帝兵馬俑の今の姿と、造営直後の彩色された姿を、C.G.で復元する番組が上映されていた。珍しいことに、これらも興味深く観ることができた。

すでに4時半を過ぎてしまったので、上野に回るのを諦め、神保町に行くことにする。T書店で新しい『ランボー全集』の情報を仕入れる。「新本で入れてあげるよ」と言われたが、「確か定価は2万円以上したはずだ」というので、「実物を見てからにする」ととりあえず辞退。

地下鉄で渋谷に出て、東横線で横浜まで戻る。駅ビルの○○○でバーゲンを開催しており、○○○カードで買うと1割引になる。テナントにY堂書店が入っているため、書籍も割引の対象となるのだ。これは見逃せない。誰もが同じことを考えるようで、エレベーターでY書店のフロアに上がると、すでにレジには食品スーパー並みの列が出来ているのだった。C.フーリエ『愛の新世界』、その他、学術系文庫9冊を選び、列の最後尾に加わる。予想外にスムーズに進み、2〜3分で順番が巡ってくる。合計で2万円近くになった。うーむ、これは厳しい。現金なら、買うものをもう少し絞ったかもしれない。やはりカードは恐いものだ。

夜、アルコールを補給しながら、買った本の後書きをパラパラめくっていると、京都のmanrayist氏から電話が入る。「白倉さんの『夢の漂流物』、もう読んだかい?」と訊かれる。これも買うはずだったが、うっかり忘れたことに気が付いた。再びこの本を買いに行く電車賃と、定価の1割引とでは、どちらが得か思わず計算してしまうとは、我ながらさもしいことだ。