白金台・日比谷・銀座

こんなに空が澄み切っている日は珍しい。また雨の日も来るだろうから、こういう日に引き篭もっている手はない。「命短し恋せよ乙女」(?)というわけで、昼過ぎに外出した。

まず白金台の畠山記念館で、「中国宋元画の精華 夏珪 牧谿 梁楷...日本人が愛した伝来の絵画」展を観る。ここは実業家・茶人であった畠山即翁を記念する美術館で、同翁が蒐集した美術品が収められている。お屋敷町のこんもりした木立の中に在り、ひっそりとした佇まいが好ましい。今日は風が強めに通って、葉擦れ音が素晴らしかった。

牧谿の「煙寺晩鐘図」こそまだ展示されていなかったが、国宝「禅機図断簡」、重文の伝夏珪「山水図」、重要美術品の伝蘇漢臣「老子出関図」、同藤原俊忠筆「二条切」など、実に充実していた。

伝夏珪の「山水図」は、西洋の遠近法からすると、消失点が2つ在るので、奇妙な感じもする(こういう例は日本の浮世絵などにもある)。だが、実際に風景を眺めるときには、近景と遠景とで見る視線が異なるわけだから、むしろこの方が現実の視覚に忠実なのかもしれない。「二条切」は平安時代の古筆切。今日に伝わって観ることができるというのは、それだけで凄いことだろう。表装も素晴らしい。

その他、梁楷「猪頭図」は、筆の達者なことに唸ってしまった。宗達の「騎牛老子図」も興味深かった。有名な「牛図」ほど「たらしこみ」が目立つわけではないが、やはり濃い墨の滲みが認められる。上部に描かれた細めの梅の枝にも、「たらしこみ」が施されているのだった。狩野探幽の「探幽縮図」(河鍋暁斎旧蔵)も素晴らしかった。多彩な筆を自在に使いこなし、絵心と技術が完璧に融合している。特に白菜の上に乗った鼠の図には、参ってしまった。

実はこうした書画よりも、焼き物、茶道具の展示の方が多い。利休作の茶杓なども展示されており、きわめて質が高いものだろう。だが、門外漢の悲しさで、ただ眺めただけ。茶道に不案内なのが悔やまれるのは、こういう時だ。

気持ちのよい美術館で、かつ気持ちのよい展示だったので、なかなか去りがたかったが、2時を過ぎたので館を後にし、地下鉄で日比谷に出て、出光美術館の「伴大納言絵巻」展を観る。

人物の表情の、多彩で豊かなこと! それに、画面の中の会話が聞こえてくるようなリアルさだ。画家の筆力に、ただただ圧倒された。かなり混んでいたが、上中下巻のすべてが(複製でなく実物が)展示される期間は限られているのだし、まあ仕方がないだろう。こういう企画展示は、何はともあれ、「日曜美術館」で採り上げる前に見るのが鉄則だ。

ガード下の喫茶店で一服した後、銀座をブラブラ歩き、新橋駅から帰宅した。ちょうど上がってきた月が、昨日にも増して美しかった。