「美術館の実力調査」?

今日(14日)の日本経済新聞朝刊に、全国の公立美術館134館を対象にした「実力調査」の結果が掲載されていた(国立・私立美術館は対象外)。記事を見る限り、この調査に関しては、その内容、結果のまとめ方、さらには調査の立場そのものに、やや疑問がある。(調査の詳細は、今月23日から「ミュージアム 拓く」と題された連載記事になるらしいので、これを見る必要があろう。)

(この調査は今年6〜8月、対象となる美術館への郵送の形で行われ、全館から回答を得たとされている。この回答結果に、美術評論家53名が「優れた展覧会」「優れていると思う美術館」を列挙した結果と、gooの利用者500名中316名が「行ってよかったと思う美術館」を回答した結果を加味してまとめたとされている。)

調査内容
調査の内容は次の3つの柱の合計44項目(記事では調査項目の詳細は明らかにされていない)。
①学芸・企画力(展覧会や収蔵品の充実度を表す)…17項目
②運営力(運営の安定度をはかる)…16項目
③地域貢献力(学校や商業施設との連携をみる)…11項目

評価方法と結果
評価の方法は各項目の得点を集計して偏差値を求め、偏差値70以上をAAA、同60以上をAA、同50以上をA、同40以上をB、同40未満をCとするもの。下記のリストが表の形で記載されている。
「総合評価」(全項目の合計点による偏差値)・・・AAAが6館、AAが22館、Aが10館
「項目別分析」(上記の3つの柱ごとの合計点による偏差値)・・・3つの柱のごとの偏差値上位10館


この調査内容と評価結果に関しては、次のような点が気になる。
①の学芸・企画力に関しては、より詳細な中身を見てみたいが、柱としてはまあ異論はないだろう。(ただその前提として、常設展と企画展をどう考えるかという、根本的な問題がある点は指摘しておかなければならないが)

②の運営力は、どれだけ外部から運営資金を獲得したかを測るものらしい。入場料収入の項目があるのは当然としても、この「運営力」という尺度は、測り方が全く逆だろう。この尺度は裏返してみれば、地方自治体が(無責任にも)美術館の運営にお金と手を抜いたため、この結果、美術館がどれだけ外部に依存しなければならなかったかを示すものではないのか?

③の地域貢献力に関しても、美術館の展示や教育・普及のあり方にはさまざまな形が有りえるのであって、地域の学校や商業施設・企業などと直接連携するのが望ましいとは一概に言えないと思う。むしろそういう連携の結果、美術館自体が不自然に商業化・観光化されるのを嫌い、そういう連携のない、純粋な展示を楽しみたいという観客だって居るだろう。

つまり②③とも、おおもとの地方自治体からの予算がカットされたための、苦し紛れの状態にあることを表す尺度であるとも考えられる。むしろこれ以前の問題として、もともと美術館を建設した自治体の側の、美術館の運営に対する熱意や責任感そのものを測る尺度を設定し、調査することが必要なのではないだろうか。

全国の自治体が有する資源や予算の中で、各美術館にどれだけそれが充当されているのかなどに関しては、新聞社が調べればすぐにまとめられるだろう。また例えば、各地方議会の議員の調査研究費・海外視察費や、自治体が国体に参加したり国体を運営したりするために当てられている資源や予算などと比較してみるものいいだろう。今の公立美術館の運営に関して調査するのであれば、「実力調査」などよりも先に、こうした問題設定や調査内容が、まず必要なのではなかろうか。

もちろん、今朝の朝刊でも、文化面に「ミュージアム 拓く」の第1回(?)「美術館蝕む蓄積疲労」として、いまの公立美術館が置かれている状況についてまとめた記事が掲載されている。調査結果よりもこの記事の方が、はるかに今の惨状を伝えており、説得力がある。こういう切り口を掘り下げないまま、「実力調査」などという形で調査結果をまとめて発表するのは、かなり危険だと思う。この結果が一人歩きして、自治体の首長や地方議会のセンセイ方が「何故、わが県(市)の美術館の評価が低いのか?もっと上がるよう努力しろ!」などと美術館側に問い詰めたりすることのないよう、望みたい。

まだ連載記事を見ていない段階だが、今朝の朝刊を見る限り、今回の調査は結論的には、その内容や結果のまとめ方も、前提となる立場や問題設定も、やや表面的でバランスも欠いていると思われるのだが、美術館の運営が専門であるはずのI女史が「美術館の現状をできるだけ客観的な指標で示そうとしている」とコメントしているのは、いかがなものだろうか。これに対して、高階秀爾氏は「自治体は結果の責任を美術館に押しつけず、十分な運営環境を整えているか、自らの責任を省みてほしい」と注文をつけておられるのは、さすがだ。これは自治体への注文であると同時に、こうした調査を行い、結果を発表するメディアに対する注文でもあることを、その主体である日経新聞は、理解してほしいものだ。