谷中から千鳥ヶ淵へ

14日、午後から外出。といっても、墓地巡りではない。まず上野の東博で「中国書画精華」展(後期)を観る。国宝 因陀羅筆「寒山拾得図」は、先日の畠山記念館の国宝「禅機図断簡」と元は同じ巻物の一部だったものだ。重文 梁楷筆「李白吟行図」などもお馴染み。日本美術の常設展も、いつもながら見応え十分だった。

JRが40分ほど遅れなければ、もう少しゆっくり観たところだが、3時半になったので、そのまま谷中のギャラリーに廻り、ジェニー・ホルツァー展を観る。LEDを用いたインスタレーション。赤と青の点滅する光源がたいそう美しいが、そこに流されている言葉は重い。これは作家が発している言葉なのか、作家が受け取っている言葉なのか、私が受け取っている言葉なのか、どこから届いた言葉なのか・・・。宇宙の片隅のこの場に居合わせて言葉を感じているのが不思議に思えてくる、素晴らしい展示だった。

なだらかな坂道を根津駅まで下って、地下鉄で新御茶ノ水駅に戻り、神保町を一歩きする。T書店に寄り、各地の古書店のカタログを見せてもらう。充実したものが多いが、目下、先立つものがないので、目に毒だ。

長居をせずに店を出て九段坂上まで歩き、千鳥ヶ淵のギャラリーで、某美術大学の学生・院生たちの焼き物のグループ展を観る。作品はすべて一辺5cmのサイコロ以内の大きさのもの。今日が(オープニング)パーティで、恩師から「サイコロに因んで、マラルメについてレクチャーするから」とお誘いいただいたのだ。

会場に着くと、すでに恩師は来廊されており、久しぶりでご挨拶した。某大学の仏文系の教え子たち(といっても、いまや学会を背負って立つ錚々たる研究者が中心だが)も集っていて、初対面の何人かに紹介してくださった。

レクチャーは、「余白」と「賭け」、「観る」と「触る」、「宇宙」と「書物」、「拒食」と「巨食」などについて。深い内容を親しみやすく噛み砕いて話されるのは、さすがマラルメ研究の第一人者だ。

たまたま隣の同士になった美大の学生さんに話しかけると、ご自分の作品を教えてくれ、材料や作り方を説明してくれた。薄い片が寄せられた作品は、海洋生物の抜け殻のように儚く繊細なものだった。瀧口さんの書斎にあっても相応しいものだと思い、そうお伝えしようと思ったが、瀧口修造とはどういう人かが今の学生さんにはなかなか通じず、もどかしかった。とても雰囲気の良い会だったが、あまり遅くならないうちに恩師にご挨拶して、会場を後にした。