白金台・日比谷

午後から外出。まず白金台の畠山記念館に行き、「中国宋元画の精華」(後期)を観る。今日の目当ては伝牧谿「瀟湘八景図」の一つ「煙寺晩鐘図」だ。前に観たのは五島美術館の「牧谿展」のときだから、たぶん7〜8年振りか。いや、あれはもう少し前のことだったろうか。墨で僅かに濃淡をつけただけなのに、霧で煙った空間の中に寺の鐘楼や木々が浮かび上がっている情景が確かに見える。やはり感動的だ。「足利義満松永久秀織田信長徳川家康紀州徳川家→前田家」という来歴には、この軸こそが逆に栄枯盛衰を見つめ続けてきたのだという感慨を覚える。

これ以外にも、同じく伝牧谿「狗鶏図」「蓮鷺図」や、伝夏珪「山水図」、定家筆詠草なども展示されている。「狗鶏図」は、体を寄せ合う雛を守る親鳥と、額を付け合せる子犬を見守る親犬の対比が面白い。絵本の一場面のような物語性がある。滲みを用いた柔らかい描き方は、「蓮鷺図」の直線的な描き方と好対照だ。伝夏珪「山水図」の厳しい画面も印象的だった。

こんなに充実した展示なのに、観客は他に5〜6人しかいない。「煙寺晩鐘図」もしばらく独り占めだった。今回の展示は今日までなのだが。うれしいやら寂しいやら…。ここは頼めば抹茶を点ててくれて、展示を観ながらベンチに座って戴けるのだが、今日は次に出光美術館に回ることにしていたので、止めておいた。

地下鉄で日比谷に出て、出光美術館「名品展Ⅱ」を観る。こちらの目当ては、等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」だ。会場に入るとすぐ展示してあった。白い鳥と黒い鳥を対比させて描くのは水墨の常道だが、この黒い鳥として、叭々鳥に替わってカラスが描かれたのは、この屏風をもって嚆矢とするそうだ。つまりカラスを描いた本邦初の作品ということになるのだが、当時から不吉な鳥とされていたので、そこに雛を育てる親鳥という情愛の要素を入れて、バランスを取っている由。確かに今年の冬に川村記念美術館で観た同じ等伯「烏鷺図屏風」のカラスより、やさしい情感がある。

(伝)宗達では、おなじみの「月に秋草図屏風」、「伊勢物語色紙」、光悦との共作(?)「古今集和歌巻」などが展示されていた。「月に秋草図屏風」は今年だけでも3回観ている。

その他、狩野光信、長信、尚信の屏風や、筆者不詳(狩野派)「祇園祭礼図屏風」、尾形乾山「色絵定家詠十二ヵ月歌絵角皿」、抱一「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」、其一「蔬菜群虫図」、歌麿北斎の肉筆美人画などなど、「名品展」の名に恥じないラインナップだった。芭蕉の「枯朶に」発句短冊、同「ふる池や」発句短冊も展示されていたが、特に「ふる池や」の、余白をたっぷりとった斬新な(だが句の内容とピッタリ合った)表装に感心した。

喫茶コーナーでセルフ・サービスのお茶を戴きながら、しばらく、ビルの窓に反射する夕陽と暮れ行く空を眺めた。