雪舟への旅(第2日)

27日(月)、朝8時過ぎにホテルを出発、9時過ぎに近鉄奈良駅に着く。まず駅前のベーカリーで朝食。飲み物プラス50円でトーストとサラダが付くというので、エスプレッソをダブルで頼む。飲み終わった頃に「もう一杯いかがですか?」とサービスしてくれる。こういうところが大手チェーンでない店の良いところだ。もちろん味も申し分なし。

猿沢池に面した旅館にバッグを預けてから駅前に戻り、案内所で路線バスの一日チケットを購入する。世界遺産を巡るコース1600円也。今日は美術館が休館なので、古寺巡礼だ。10時過ぎのバスでまず法隆寺中宮寺に行くことにする。途中で雨が降り始めた。バッグに傘を入れたまま、持ってこなかったことに気が付いたが、後の祭りだ。走ること約1時間で終点の法隆寺前に到着。

南大門に向かう松林を歩くだけで、期待は否応無く高まる。まず五重塔、金堂、廻廊と、伽藍を一回りし、さらに宝物館、夢殿を巡る。建設後に一度火災に遭っているらしい。このあたりの経緯を巡っては確か梅原猛が「聖徳太子の怨霊を閉じ込めるためだ」などいう、例によって珍妙な説を唱えていたはずだ。いずれにしろ、その後は落雷にも遭わず、よくぞ残ったものだと思う。

建物も素晴らしいが、夢違観音、百済観音、玉虫厨子と所蔵品も見るべきものばかり。修学旅行の生徒さんたちに遭遇するのには閉口するが、自分も昔はそうだったのだから仕方ない。

奥の中宮寺に足を延ばし、弥勒菩薩半跏像を拝む。黒光りするスリムなお体は、抽象化されてモダンな感じがする。天寿国繍帳はレプリカだが、図柄はよくわかる。


バスで薬師寺まで戻る。雨が本格的に降ってきてしまった。東塔は確かブルーノ・タウトが「凍れる音楽」と評したそうだが、大きな主屋根と裳階の小屋根が交互に重なる様は、動きとかリズムが感じられるようだ。

金堂の薬師三尊はいつ見ても表面の輝きが美しい。火災に遭っているとはとても思えない。ちょうどお坊さんの解説が始まった。檀家制度が無い奈良の寺院の財政がいかに厳しいか、それを乗り越えて西塔などを再建したのはいかに大事業だったか等々、さすがは講話のプロだけあって説得力がある。勧められるまま般若心経の写経セットを買ってしまうところだった。

雨がいっこうに止まないので、諦めて雨に打たれながらバス停に向かう。案内所の軒下で10分ほど雨宿りをしているうちにバスが到着。雨が続くので唐招提寺はパスすることにして乗り続ける。途中でどうやら小止みになってきたので、そのまま終点の春日大社まで行くことにする。終点では霧雨に変わっていた。山中の冷気に針葉樹の香りが加わり、たいそう気持ちよい。森林浴そのものだ。境内を一めぐりする。

そのままゆっくり坂を下り、東大寺の三月堂と二月堂に向かう。三月堂は天平彫刻の宝庫なのだが、さすがにこの時間だと訪れる人も少ない。寺男氏がサーチライトで不空絹索観音の宝冠あたりを照らしてくれた。光線に当たって埋め込まれた宝石がキラキラ輝く。両手の間にも水晶玉が挟まれているのだそうだ。二月堂にはお水取りの時に来てみたいものだ。

   



大仏殿はすでに拝観時間が終了していた。南大門に行き、仁王像を拝むが、既に暗くて、脚のあたりしかよく見えなかった。さらに薬師寺の講堂の前を通り、南方円堂の脇の階段を降りて、旅館に帰る。

歩き回って疲れたので、早速一風呂浴びる。大浴場を独り占めできた。大きな浴槽で脚を伸ばすのは、狭いユニットバスよりはるかに気持ちが良い。再び着替えて、路地を散歩する。古本屋さんが2軒あったので、覗いてみるが、収穫はなし。路地裏の小料理屋で夕食。