Great Ukiyo-e Masters

10月某日、松濤美術館の展覧会「春信、歌麿北斎、広重―ミネアポリス美術館秘蔵コレクションより―」を観に出かける。内心「『秘蔵コレクション』とは大仰な」と思っていたのだが、どれもこれも状態がよく、まるで今朝刷り上ったかのような鮮やかな色彩の作品ばかり。まさにこの言葉がふさわしかった。歌麿写楽は少し物足りないような気もしたが、北斎と広重は質・量ともに申し分なかった。また春信の作品をこれほどまとまって観たのも、初めてのような気がする。前期・後期で全作品を展示替えするそうなので、また訪れなくては。後期が楽しみだ。
カタログの出来も素晴らしい。四六版を横長にするという珍しい版型だが、これが内容にピッタリ。薄いクリーム色で表面がやや粗い用紙が、浮世絵版画に実によく合っている。カタログを開いた瞬間、幼い頃に初めて絵本を買ってもらって頁をめくった時の、トキメキのような感覚が蘇ってくる。
このところ開催される浮世絵の展覧会は、海外の美術館からの里帰りの展示が多く、それだけ海外で評価され、コレクターが居るということは結構な事だが、どのコレクションも国内で収蔵されている作品より質・量・状態がよい点には、寂しさも覚える。大田記念美術館などを除けば、国内によい作品がまとまった形で残されていないのは何故だろう。明治期以降の日本人には日本美術の良さが判らないのだろうか。この素晴らしい展覧会にしても、入場者数は国立新美術館フェルメールの展示には及ばないかもしれない。
展示を拝見した後、渋谷駅まで戻り、東横の中の蕎麦屋で、知人と日本酒を一杯やる。卵焼き、天ぷらとお蕎麦が美味だった。別に、日本美術を観たからといって、日本食に限っているわけではないのだけれど・・・。