御物御絵目録

10月某日、午後から上野の東京国立博物館本館まで、特別陳列「東洋の名品―唐物」と同東洋館の「中国書画精華」を観に出かける。夏のような暑さがぶり返し、上野公園の森では蝉が今年最後の鳴き声をあげていた。
「唐物」は鎌倉時代以降、中国から輸入された美術工芸品で、出品目録によれば「特に足利将軍家に伝来した品々は、東山御物(ひがしやまごもつ)として珍重されました」由。
この企画展示は、東山御物の中でも「最高の品格をもつ」として崇められながら、長い間、分蔵されてきた三幅の掛け軸、すなわち梁楷の「出山釈迦図」(Buddha leaving the mountain 重要文化財)、「雪景山水図」(Snowy Landscape 国宝)、伝梁楷の「雪景山水図」(同 重要文化財)が、三幅一件の国宝として新たに指定され、東博の所蔵品となったことを記念するもの。三幅それぞれ、情景に応じてあらゆる筆遣いが自在に展開され、まったく自然で雄大なのに、細部は繊細で緻密で、全体に緩みがなく緊張感がある。なるほど、「最高の品格」とはこういうものかと納得した。
展示中の白眉は東山御物の目録「御物御絵目録」(ごもつおんえもくろく)だろう。これは東山御物のコンセプトをまさに体現した稀代の美術家・プロデューサー能阿弥の直筆(と思う)。(当然のことながら)梁楷、牧谿などをはじめとする顔ぶれの豪華さと、作品点数の多さに、思わずうなってしまった。あっさり走り書きされ、天地に滲みがあって無造作に扱われてきたように見えるのも、逆に凄いことだ。
その他、伝胡直夫筆「夏景山水図」(Summer Landscape 国宝)や伝毛松筆「猿図」(Monkey 重要文化財)や青磁の名品(下蕪瓶、茶碗 銘馬蝗絆)などが展示されていた。点数は15点と、多くは無いが、全体に密度が高く、素晴らしかった。
「中国書画精華」は毎年恒例の展示だ。今年も李迪筆「紅白芙蓉図」、李氏筆「瀟湘臥遊図巻」を観ることができた。梁楷筆「李白吟行図」は、確か去年は観ていなかったと思う。
東博を出て、SCAI THE BATHHOUSEまで、谷中の街をぶらぶら歩く。リー・ウーファン展が開催されているのだ。ここは銭湯の建物を使った画廊で、男湯側か女湯側かわからないが、入り口も元のままだ。建物の中に入ると、某美術館の学芸員Mさんも来廊されていたので、ご挨拶し、先日のご招待のお礼を申し上げる。Mさんはこの後、銀座にまわり、写真関係の集まりに出席されるそうだ。リー・ウーファン展は近作の展示。薄いクリーム色の下地にグレーの絵の具で筆の跡が定着されたタブローは、グラデーションがたいそう美しく、見ていて心が和む。現代美術の代表的作家だけあって、すべて売約済みとなっていた。結構なことだ。
根津から新御茶ノ水に戻り、神保町へ。T書店の店頭均一本に新潮美術文庫が出ていたので、思わず買い漁る(だが帰宅して確認すると5冊もダブっていた!)。店主と世間話。近々、高知まで仕入れに行くそうで、高速夜行バスのことなどをしばらく話す。今日は普段よりもご機嫌がいい様子なので、話を巨人優勝に振ってみると、案の定、このためだった。N書店にも顔を出して、知り合いに先日のチケットのお礼をする。アングラ・ブックカフェのイベント(展示&落語)も楽しみだ。
地下鉄で表参道まで行き、原宿駅前の某中華料理屋に入る(元の職場関係の集まり)。確かに美味しかったが、値段もたいへんよかった。(特にデザート「シークワーサーのゼリー寄せ」は、さっぱりして絶品だった)