神保町

12月某日、神保町まで新刊書を買いに出かける。まず九段下寄りのN1書店に行き、平凡社から刊行された鈴木雅雄『シュルレアリスム、あるいは痙攣する複数性』を買う。学術系文庫でも買いたい新刊があったが、我慢して店を出る。
続いてT書店へ。店頭均一本から久野収『市民として哲学者として』を拾う。そのまま店に入り、一階の店主と四方山話。話題は主に最近の展覧会・映画など。先ほど購入した『シュルレアリスム、・・・』を見せると、話は高名なシュルレアリスム研究者のことや、『澁澤龍彦全集』と『コレクション瀧口修造』との比較などに広がった。
店を出て、東京堂書店に行き、1階で最近の新刊書をチェック。入り口前の平台に、林哲夫『古本屋を怒らせる方法』と並べて鈴木雅雄『シュルレアリスム、・・・』が置かれていた。偶然だろうが、この意味深い取り合わせに驚き、うれしくなった。(自宅でも並べることにしよう。)書肆心水の京都学派関係の新刊シリーズも目を引いた。隣の平台には『書肆アクセスという本屋があった』も積まれていた。3階に上がって、思想書などをチェックしてから、店を後にする。
書肆アクセスのあったところを通ると、ちょうど改装工事中で、白く塗られた床に蛍光灯の無機質の光が反射し、何も入っていない本棚が黒い地肌を晒していた。何となく告別式の会場や祭壇を連想してしまった。この後どうなるのか知らないけれども、コミック・アイドル・アダルト系の書店だけは勘弁してほしい。便利堂のショップで来年のカレンダーや屏風のミニチュアを見た後、N2書店に寄り、知り合いに挨拶して帰宅。
郵便受けを開けるとF書房の目録が届いていた。いつもは二つ折りにされ、定型封筒で送られてくるのだが、今回は大型で、封筒の上から触っても硬い感じが伝わってきた。着替えるのも忘れて早速封を開けると、目録は目録でも「一人展」の目録だった。つまり東京古書会館地下の会場を一人で二日間にわたって借り切り、展示即売会を催すのだという。これは快挙だろう。
しかも、朔太郎の無削除版『月に吠える』、同「日本への回帰」草稿、鏡花『婦系図』、漱石『門』、『心』、『三四郎』、谷崎『人魚の嘆き』など、内容も素晴らしい。テレビ出演などで多忙な店主だが、本業にも手抜かりはないようだ。いつものような申し込み順(つまりは早いもの勝ち)ではなく、今回は抽選の由。焦らずじっくり目録を見ることができる。初版本はお手あげだが、(定評のある)雑誌には欲しいものが2点がある。週明けに申しむつもり。