新橋・上野・日本橋

12月某日、昼前に家を出て、まず新橋の画廊閑々居へ。長尾和典展を観る。和紙の微妙なテクスチャーと墨で引かれた濃淡さまざまな線のニュアンスを堪能する。小品も大作も一つ一つが何かの物語を読むような感じがした。
画廊を出て、新橋駅から上野まで行く。(その途中の電車内で、元の組織の兄貴分とばったり出くわし、東京駅で昼食をご馳走になった。)東京都美術館フィラデルフィア美術館展を観る。この美術館は米国の他の美術館同様、コレクターの寄贈品によって成立した美術館で、19世紀後半からの西洋絵画の粒選りの名品を所蔵している。アレンズバーグ夫妻が寄贈したマルセル・デュシャンのコレクションなどはその代表例だろう。今回の展示では、そのデュシャンの「父の肖像」「チェス・プレイヤー」のほか、アンリ・ルソー「陽気な道化たち」や3点のセザンヌブランクーシ「接吻」などが特に印象に残った。ミロの初期の大作「馬・パイプ・赤い花」も初めて見る作品だ。
「接吻」の周囲を巡って観ることができ、髪の毛やお腹のカーブの彫り方が、左右の男性・女性で異なっているのが確認できたのはありがたかったが、あのブランクーシ特有の木製の台座(というか、伐り出された直方体の材木)に載せられていないのは一体どういう訳だろう。会場に掲示されていたアレンズバーグ・コレクションの展示写真では、ちゃんと材木に載せられているのに。これでは極論すればブランクーシとは言えないのではないか。
東京駅まで戻り、三井記念美術館まで歩いて、「安宅コレクション」展を観る。5月にも大阪で観ている展覧会だが、いい作品は何度見てもいいものだ。ただ、大阪の東洋陶磁美術館で観たときよりも全体に色合いが暗く冷たい感じがした。たぶん、あちらの照明では自然光を導き入れているのに対して、こちらは蛍光灯だからだろう。
コレクター安宅英一は50歳から本格的に蒐集を始めたそうだが、大変な目利きだった上、付き合っていた美術商も有力なところばかりで、しかも、惜しみなく金をつぎ込むことができたので、こうした世界的なコレクションが成立したというわけだ。目をつけた名品を手に入れるのに、いろいろ戦略を立て苦労したことが、会場の解説に綴られているが、こうした苦労も、彼にとっては無常の喜びだったはずだ。やはり幸福なコレクターだったといわなければならないだろう。(こちらは図録と卓上カレンダーくらいで我慢しなくては。)
すでに5時近くになっていたので、大丸に出店したイノダ・コーヒー店には次回寄ることにして、コレド日本橋地下のパン屋でいろいろなパンを買い、ついでにワインと洋風惣菜各種を買い込んで、帰宅。