平塚・茅ヶ崎・葉山・横須賀(2)

続いて、神奈川県立美術館葉山館に行き、「誌上のユートピア―近代日本の絵画と美術雑誌 1889-1915」展を観る。欧州から近代日本まで、有名な美術雑誌を概観する充実した展示。「JUGEND」「VER SACRUM」「The Yellow Book」「明星」「方寸」「月映」など、初めて実物を見るものも多かった。雑誌だけでなく、主に人物画や、美しいポスター・絵葉書なども展示されており、見ごたえ十分。カタログも情報量が多く、ハンドブックとして使えるだろう。
日曜日にお目にかかったばかりの、萩原朔太郎の研究者Yさんもちょうどいらっしゃっており、ご挨拶した。この展覧会を観るためわざわざ豊橋から出てこられたそうだ。展覧会に合わせて開催された連続講演会「絵画と書籍の交流」には、発表の準備のため出席できなかったが、チラシを見ると、最後の2回が8日に開催されるようなので、聴講したいと思う。
この後さらに横須賀美術館に回り、「若林奮―VALLEYS」展を観る。先年亡くなった現代日本を代表する美術家若林奮の大規模な立体作品「VALLEYS」が、その遺志により同美術館に寄贈され、その構想に従って美術館前の海岸を臨む屋外広場に設置されたのお披露目する企画展。「VALLEYS」をめぐる作家自身の考察や、遺志を受け継いだご遺族や関係者によるプロジェクトの実現過程が、パネルで解説されていた。もちろん関連した立体作品やデッサンなども展示されていた。
表に出て「VALLEYS」の巨大さ(と夕方の風の冷たさ)を体感した後、本館地下の常設展と、別館の「谷内六郎館」を駆け足で回る。開館までの経緯をめぐるいろいろな噂も聞いているので、今まで食わず嫌いで素通りしていたが、実際に入館してみてみると、なかなかのものだった。まるで自分の子供時代のことが描かれているように思われ、懐かしさを覚えた。「赤とんぼ」の曲が使われていたテレビCMなども思い出してしまった。それだけ歳をとったということなのだろうか。ついついショップで紙風船のセットなどを買い込んでしまった。
本館に戻って屋上に上がり、東京湾の夕暮れをながめたところで、ちょうど閉館時間になった。透明なガラスの壁を突き破らないように注意しながら館を出て、表を歩いていると、帰宅の途中の学芸員Kさんにぱったり出会った。先日ブルーノ・ムナーリ展でお目にかかったばかりだ。「若林展、拝見したところです」とご挨拶した。4館も回ることができて、充実した一日だった。
一昨日から、頂き物のCDを聴きながら、毎年恒例の数字合わせの作業を続けている。ある特殊事情から今年は例年にも増して作業が複雑で、うんざりしている。締め切りが迫っており、だいぶ焦っているのだが、CDを聞くと心が和み、ほっと一息つけるようだ。