奥沢・原宿・恵比寿

3月19日(水)、元の組織の兄貴分から呼び出しの電話があったので、朝、自由が丘まで行く。早めに家を出て、待ち合わせ時間よりかなり前に到着したのだが、すでに兄貴分が駅前で待機されていた。遅参をお詫びし、今日の行動予定を打ち合わせた後、裏通り(裏街道?)を歩き始めた。
しばらくすると奥沢駅前の古いビルに到着、念のため辺りに目撃者が居ないことを確認してから、すばやくビルに入る。通りに面した一室の入り口の扉を静かに開けると、中にはロウケツ染めによる平面作品と、何点かの写真が展示されていた。兄貴分の知り合いの写真家とそのお嬢さんの二人展だそうだ。しばらく拝見しているうち、お二人も到着された。
初めて拝見する写真家なので、ご本人に撮影場所や時間帯、使用しているカメラのことなどを少し聞いてみたが、迷惑そうな顔をするばかりで、取り付く島もない。初対面の人間からこういう応対をされたのは、あまり記憶にない。出がけに犬の糞を踏んづけたとか、あてにしていた宝くじが外れたとか、何か不愉快なことでもあったのだろうか。
自由が丘まで戻り、駅前のラーメン屋で昼食にする。味噌ラーメンを啜り、餃子をパクつきながら、朝のニュースで大きく報じられていた運慶の大日如来坐像のことなどを話す。
三越が落札したそうだけど、よかったなあ。いずれどこかに寄贈するのだろうか」「いや、あれは転売目的か、顧客からの依頼に決まってますよ。そんな十数億円もするようなものを寄贈する余裕が、上場企業にあると思いますか?株主代表訴訟でも起こされたらどうするんです?」「それもそうだな。とすると、その依頼者は誰だろう?」「さあ、わかりませんけど、関西の新興宗教系の某美術館あたりではないですか」
原宿まで出て、太田記念美術館の「長瀬コレクション 北斎」展を観る。
「長瀬コレクションは、昭和53年、故長瀬武郎氏により本館へ寄贈された約600点からなる浮世絵のコレクションです。氏がフランス滞在中に収集した、葛飾北斎の錦絵や摺物を中心とし、数多くの貴重な作品を含むことで知られています。」(美術館の解説より)
これだけの量がフランスに流出していたとは、いかに当時のフランスで愛好されていたかを物語るものだろう。無事帰国し、散逸しないで美術館に収まったのは、喜ばしいことだ。わざと不自然なポーズで描かれた力士や僧侶や物売りなどの漫画の手鑑(下絵)があったが、その線描の饒舌さと省略のバランスが面白かった。地下のショップで手ぬぐいや布製の袋物などを物色。
その後、宮益坂下まで歩き、自転車にぶつかられないように注意しながら横断歩道を渡り、書店の2階あがって珈琲を飲む。兄貴分とはここでお別れし、恵比寿に回って、東京都写真美術館の「シュルレアリスムと写真」展を観る。展示は「都市」「オブジェ」「身体」「細部に注がれた視線」など、写された対象によって分類されており、きわめて点数が多い。初めて見る写真もかなりあり、なかなか楽しめた。
ただ、マン・レイブラッサイ、ボワファール、ユバック、クロード・カーアン(「カオン」と表記されている)、ベルメールモリニエなどの、実際にこの運動に関係のあった作家だけでなく、アジェ、ブロッスフェルト、ヴォルス、ビル・ブラント、さらには日本の写真家まで同列に並べられており、その結果、シュルレアリスムと写真とが相互にどういう関係を持ち、それがどのように展開されていったか、またシュルレアリスムが外部の写真家からどういう影響を受け、また影響を及ぼしたか、などについては、あまり明瞭には見えてこないようだ。
1階のショップでカタログ代わりの雑誌を買っていると、ちょうど担当された学芸員Jさんが降りてこられたので、少し立ち話。「本当は2階と3階の2フロアで展示するつもりで準備してきたが、3階だけの展示になり、2フロア分を1フロアに詰め込むことになったので、テーマ別の分類で大きく括ることにした」由。来月にはシンポジウムや連続講演会などの企画も予定されているので、また訪れたい。
この後、神保町に出て晩ご飯にするつもりだったが、雨が降ってきたので中止し、帰宅することにした。自宅近くの駅に着いたときには本降りになっていた。傘を持ってきていなかったので、またしてもずぶ濡れになってしまった。雨を見くびると、ろくなことにはならないようだ。