或る日突然

若い知り合いの日記に、「トワ・エ・モワ」の曲が好きで、カラオケでも歌うと書いてあるのを読んで、高校時代のことを想い出してしまった。(何しろ、こちとら「或る日突然」「空よ」や、歌手は別だが「喝采」「夜間飛行」などを、リアルタイムで聴いていたのだ。別に自慢するようなことでもないが・・・)
1年生のときの同級生に、髪が長く、とても美しい女の子が居て、ひそかにこのデュオの女性に似ていると思っていた。笑顔がとてもチャーミングで、勉強(特に英語)もよくできた。憧れの人だったともいえる。
こちらは高校に入るときに引っ越したので、周囲に同じ中学から進学した生徒が一人も居らず、なかなかクラスに馴染めなかった。もちろんこの女の子のことも、遠くから眺めているだけだった。ある朝など、まだ他の生徒がいないくらい早い時間に登校したら、どういうわけか校舎の入り口の下駄箱のところで鉢合わせてしまい、向こうは気さくに「おはよう」と挨拶してくれたのに、どぎまぎして、ろくに挨拶も返せなかったのを覚えている。
中学が同じだった一人の同級生の男の子ととても仲がよく、校内でもしばしば一緒にいるところが目撃された。下校するときもいつも二人で肩を並べ、おそろいのショルダーバッグを提げて帰っていたように思う。まわりの男子生徒たちは(もちろん私も)「何であんなやつと付き合うのだ?!」と不思議がっていた、いや憤ってさえいたが、そんなことにはまったくお構いなし。お医者さんのお坊ちゃんで、なかなかの好男子、しかもサッカー部でも活躍していたので、今にして思えば、まさに似合いのカップルだったようだ。
二人の仲は高校時代の3年間を通じて続き、美しくも清く燃え上がっていたが、物事にはすべからく始まりがあれば終わりもある。形あるものはすべて壊れる。まして幼き恋においてをや。進学に際して男の子の方は北海道の大学の医学部を志望し、女の子は東京のキリスト教系の大学を選んだので、さしもの二人にも、ついに別れの時が訪れることとなった。卒業とともに二人はそれぞれの道を歩み始めたのだった・・・。
後年、クラス会か何かの時に、同級生たちの噂話となり、当然のことながら、この二人のことも話題に上った。男の子の方はそのまま北海道に留まり、そこで医者となったそうだ。女の子はその後、紆余曲折の末、スチュワーデスとなり、各地を文字通り飛び回わる生活に入った。
ところが、フライトで北海道に行った或る日突然、この男の子と再会したらしい。(いや、そもそもスチュワーデスになったのも、実は男の子を訪ねるためだったという説もある。)ともあれ、結局この二人はめでたく結婚したのだそうだ。
今どうしているかは知らない。