関西放浪記(その2)

selavy2008-05-09

5月6日(火)。京都に戻るので、朝、近鉄奈良駅へ。昨年の関西旅行の後、知り合いが「京都行きの直行が無いときは、西大寺で乗り換えると早い」と教えてくれたので、そのつもりで時刻表を見ると、10分ほど後に直行の急行がある。迷わずこれに乗る(駅のコンビニでサンドイッチを買い、車内で朝食にする)。9時前に京都駅に到着、さらにJRで石山駅に出て、MIHOミュージアムまで山道を50分ほどバスに揺られる(専用のミュージアム・バスではなく旧式の路線バス)。やっと到着したと思いきや、バス停・駐車場の横にあるのはレセプション棟で、展覧会が開かれているミュージアム棟は、そこからさらに坂道を7〜8分上がったところだった(電気自動車の送迎もある)。
特別展示「与謝蕪村―翔けめぐる創意―」を観に来たのだが、昨日の「天馬」展とのつながりもあるので、まずは南館の常設展示「シャングリラ」から観ることにする。この美術館のコレクションは、現代美術画廊の草分けのひとりJさんが絶賛していたが、聞きしに勝る内容。ギリシア・ローマから中国にいたるまで、レリーフも彫刻も金属器も陶磁器もガラス器も、ローマ期のフレスコ画も、一点一点がすべて素晴らしかった。
中国西周期(紀元前5世紀)の編鐘も展示されていた(65の鐘から成るセットうち、低音部を受けもつ10個程度)。今日の12音音階に相当する音程や転調の概念まで用いられるほど、高度な理論に基づき作曲・演奏されていたそうだ。以前、東博の中国文化展か何かでも観たことがあるが、国内にコレクションがあったとは・・・
この常設展示は、質からいうと昨日の「天馬」の上を行くだろう。よく集めたものだ。「シャングリラ」というコンセプトも巧みだ。展示品のあまりのすごさに体がふらついてしまった(単なる二日酔いか?)。
続いて日本美術が展示される北館の「与謝蕪村」展を観る。「奥の細道図巻」「十二神仙図屏風」「寒林野馬図」、多数の俳画、書簡や書物など、約150点からなる展示(といっても展示替えがあり、実際に観ることができたのはその3分の1くらいだが)。初期の俳画も味があって好ましいが、晩年の「夜色楼台図」「擬張平山山水図巻」など、落款に「謝寅」の名を用い始めて以降の横長の山水図(これを「謝寅」物というらしい)の質・品格の高さは、全く次元が違う。
だが今回の目玉は何と言っても、没する前年に描かれた六曲一双の「山水図屏風」だろう(左右ともに左双のような構図が珍しいが、上図はその右双)。これは新発見の優品で、銀箔地に雄大かつ緻密に描き込まれ、筆力は衰えを見せていないどころか、まさに絶頂期と思わせる。屏風自体の状態も申し分なく良好で、銀箔もほとんど錆を生じていない。紛れもなく蕪村の代表作として挙げ得る作品で、いずれは国宝に指定されるかもしれない。
(今回はこの特別展示のため、日本美術のコレクションは展示されていなかったが、いつかまた見に来たいものだ。)
喫茶「パイン・ビュー」(窓から松の木々が間近に見える)で昼食を、と思ったら、まだ1時前だというのにすでにサンドウィッチが売り切れており、フランスパンが2本残っているだけだった(しかもバターを頼んだら置いておらず、「ジャムしかありません」と言う)。といっても、レセプション棟のレストランに戻るのは時間が惜しいので、このバゲットとコーヒーで済ませ、急いで展示室に戻る。見入ってしまって時間を忘れてしまいそうなくらいだ。ミュージアム・ショップで買い物を済ませ、辛うじて2時発のバスに駆け込む。あっという間の3時間だった。