上野・神保町・銀座

selavy2008-06-22

6月19日(木)。昼過ぎに外出。上野の東京国立博物館に行き、運慶作「大日如来坐像」を見る。入り口を入った1階すぐ右手の11室に、しかもいきなり対面するように展示してあるのが意外だった。思っていたより小振りで(70〜80cmくらい)、金箔がかなり残っているが、表面の艶はくすんでいて、むしろ好ましい。後ろに回ると(こういう角度で見ることができるのがありがたい)すっと背筋を伸ばされたお姿は、涼やかな感じがする。
改めて正面から拝見すると、端整なお顔立ちで、興福寺の阿修羅像を想起させなくもないが(特に眼や眉あたり)、頬のあたりはもっとふくよかだ。右斜め前あたりからが最もよいように思う。見ているだけで幸福な(救われた)気持ちになってくる。
運慶作に共通する三点の特徴、すなわち1.五輪塔形の木柱、2.心月輪としての水晶珠、3.舎利の納入品の、三点すべてが揃っているうえ、足利市の古寺にはおそらくこの仏像を指すと思われる「運慶作の大日如来」についての伝来もあるそうなので、運慶の作品であることはまず間違いないそうだ。
800年以上の歳月を越え、特に明治期の廃仏毀釈運動の嵐をかいくぐって、よくぞ残ったものだ。保存状態もよいので、おそらく秘仏中の秘仏としてどこかのお堂に大切にされてきたか、あるいは逆に忘れらていたその存在がどこかの廃寺・廃堂で発見されたかの、どちらかだろう。確か最初はある個人が関東の骨董商で見つけて購入し、東博に(つまりは国に)購入を打診したが価格が折り合わず、オークションにかけたと聞いたが、何にしても国内に残ってよかったと思う。
そのまま2階に上がり、常設を見る。国宝室は「華厳宗祖師絵伝」。紙・絵の具が大変美しい絵巻で、登場人物の姿や仕草に「(・・・している)ところ」と書き込みがあるのが興味深かった。「茶の美術」は、1室の展示品すべてが大骨董商広田不弧斎の寄贈品だった。中国・朝鮮陶磁の名品・優品を数多く扱ったのは、例の安宅コレクションの「三種の神器」のエピソードでも有名だが、茶道具も扱っていたのかと再認識させられた(たぶん、茶道具の方が中心だったのかもしれない)。不弧斎のことをもっと知りたくなった。
「屏風と襖絵」は、雲谷等顔の山水、曽我直庵の竜虎、海北友松の山水という、なかなか見る機会の少ない3点の組み合わせ。じっくり拝見した。特に二つの山水画は、同じ「山水画」でもその作風は、等顔の静に対して友松の動と、正反対。どちらも時代は安土桃山末期なのに、興味深いことだ。
JRで(秋葉原は素通りして)御茶ノ水まで戻り、神保町へ。美術書古書店をいくつかハシゴした後、某T書店に行く。店主は仕入れに出かけており、奥さんとしばらく話す。七夕の大市のこと、宮城の地震のこと、最近の訃報のこと、健康状態のこと、介護施設のことなど。「最期に看取ってもらえる人がいないと寂しいでしょうね・・・」と、あまり触れてほしくない話題になってきたので、退散する。
大手町経由で銀座に回り、M画廊のMさんを訪ねる。近くのビアホールに入り、見てきたばかりの大日如来坐像のことなどを話しながら喉を潤す。オークションや美術館のコレクション、今の美術品の流通状況、さらに昔の現代美術画廊やバー・ガストロのこと、瀧口修造とその書斎のことなどに話が広がり、自然に土曜日の発表の予行演習まで出来てしまった。