2005年11月6日 葉山から藤沢へ

体調も戻ったようなので、久しぶりに外出した。
まず神奈川近美葉山館の「シュヴァンクマイエル」展。
もっと早く行っておくのだった。

美術館に到着すると、チケット売場の前に人の姿が見えるし、コインロッカーを使おうとしたら、何とすべてふさがっていた! 今日が最終日とはいえ、こんなことは葉山館で初めてだ。図録まで売り切れていた・・・。

展示室も混んでいた。第1室だけでも、50〜60人はいただろうか。ただ、ザワザワと浮ついたところが無く、落ち着いていて、何だか夢の中のような、ウットリとした空気が流れているように感じられた。シュヴァンクマイエルに心酔している人が多かったためだろう。

展示は次の5章で構成されていた。
第1章「博物誌」
第2章「形成」
第3章「触覚主義」
第4章「夢/物語/エロチシズム」
第5章「ドローイング/アニメーション」

タブロー、版画、コラージュなども、もちろん良かったが、私にはクレーやエルンストの影響を隠そうとしていない平面よりも、オブジェ、マケットなどの方が面白かった。

特に第1章の「博物誌」のオブジェ「博物誌ファイル」、「食虫動物」のシリーズなどが素晴らしかった。単にグロテスクなだけではなく、きわめて繊細かつソフィスティケートされており、コーネルの箱に通じるところもある。しかし、あのように浄化された世界ではなく、アイロニーの苦さ。チェコアヴァンギャルド独特の味だ。
「触覚主義」の頃のオブジェも、デュシャンマン・レイを引用しているものもあり、なかなか面白い。

総じて旧ソビエトスターリン主義の残滓に圧迫を受けている時期の方が密度と緊張感の高く、後年のソビエトが崩壊して、共産党政権が倒れた後は、当然伸び伸びしているが、やや緩くなっているような印象も受けた。歳をとって表現がより多彩かつ自在になったといえるかもしれない。このあたりは、もう少し考えてみなくてはいけない問題だ。

何にしても、第二次大戦前のシュルレアリスムでおなじみの、コラージュ、フロッタージュ、オブジェなどの語法を、戦後も追究しているというだけで、親近感を覚えてしまう。特に奥さんのエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーのタブローは、1930年代の日本の前衛絵画を想起させるところがあり、懐かしさまで感じた。

惜しかったのは、映画を見ることが出来なかったことだ。エヴァが会期中に亡くなったため、昨日と今日、急遽、追悼上映プログラムが組まれたのだが、時間的に合わなかったのだ。事前に判っていれば、合わせたのだが・・・。

美術館を出ると雨が降り出していた。そのまま藤沢に回り、古書店S文庫を覗く。先日、関内の古書市で挨拶していたのだが、実際の店を訪れてみると、期待どおり品揃えが充実していた(といってもいわゆる「白い本」が中心だが)。古書店らしからぬ小綺麗な店内で、棚の配置に余裕がある。

奥の在庫スペースにも、文庫・雑誌の類がビッシリ。棚に収まりきれず、床にも未整理のダンボールがかなりある。移動式の棚を動かして、どういう本かを大体見せてくれたが、1930年代の洋雑誌の個所は何かありそうな感じ。店頭に出てくるのを気長に待とう。

本日は買ったのは中公文庫の圓仁「入唐求法巡礼行記」他3冊、および「スムース文庫07」の林哲夫画「読む人」。(「まぼろしの古書届きけり物の種」との一句および署名入り。)

「雨の中わざわざ来て下さって・・・」と、かなり値引きしてくれた。

店を出ると、犬も猫も総出の、ものすごい土砂降りだった。天気がよければ、懐かしい藤沢の街を散歩し、その後、茅ヶ崎のカフェ(洋楽のLP1万枚をそろえており、自由に聴けるという)に廻ろうと思っていたのだが、諦めて、そのまま帰宅した。