竹橋!竹橋!竹橋!

雨が小止みになったので、竹橋の藤田嗣治展へ行く。おにぎりを持参し、まず眺めの好い展望喫茶室で腹ごしらえ(本当は持ち込み禁止です)。
お堀端の桜は、すでにあらかた散っているが、それでも今年はずいぶん長持ちしたようだ。まだ少し残っている花びらと芽吹き始めた新緑とが、適度に混ざって美しい。

一階に戻り、藤田の芸大卒業制作の自画像から見る。黒田清輝から酷評されたそうだが、そんなに悪い作品ではない。渡仏後の最初期に描いた、藤田自らが「デングリ返ししたいほどの快心作」という意味のことを述べたという風景画「巴里城門」は、予想外に小ぶりだったが、空の光の描き方、遠近感が素晴らしい。

乳白色の肌に細い輪郭線で描かれた、初期の裸婦像、自画像、静物画は、日本画を見慣れた目にはさほど新しく映らないが、油彩でああいう微妙な透明感、明暗のニュアンスを描くのは、フランス人には驚きだったのだろう。

戦争画のコーナーは、5点の大作に囲まれ、息がつまるようだった。発注者である軍部の意向は戦意昂揚のためだったはずだが、画家の力量はそんなものを遥かに超えてしまっている。「藤田の代表作はこれらの戦争画である」ということになる日が、そう遠くない将来、来るような気がする。

一わたり観てから振り返ると、やはり最初期の作品と戦争画が心に残っている。

再び4階に上がり、常設を観る。鉄五郎、楢重、劉生、俊介など。特にタンギーと小牧源太郎・北脇昇・三岸好太郎を並べた展示が新鮮だった。

特集展示は浜田知明の版画と岡上淑子のコラージュ。これは見ごたえがあった。

すでに展覧会を三つハシゴした質と量なので、大満足だったが、せっかくだから、工藝館に行き、「花より工芸」展も観ることにした。新収蔵品を中心とする展示だ。

館内に入るといきなりベルメールの写真と、四谷シモンの人形「解剖学の少年」が展示してあった。ふと、某県立美術館の学芸員さんの言葉を思い出してしまった。
「シモンさんの人形、せっかく収蔵したのに、一部の県会議員に<猥褻だ>と騒がれるかもしれないと思うと、簡単には展示できないんですよ…」
ついにシモンさんの人形が国立美術館に収蔵され、展示されるようになったか、との感慨がこみ上げる。

荒川豊蔵の志野茶碗、三輪壽雪の萩灰被四方水指、藤田喬平の飾筥など、どれもため息が出るほど素晴らしい。ああいう器を生涯に一度でいいから所有して使ってみたいものだ。

工藝館を出ると時間は3時半を回っている。北の丸公園は、雨後の空気が心地よい。さらに九段下から神保町へ足を伸ばし、T書店へ。ちょうど店主が仕入れから戻ったところだった。

大蔵書家の未亡人からの依頼で、朝から5人がかりの大仕事。6500冊もあったそうで、店主には珍しく「疲れた、疲れた」と口走る。 専門書を一冊買って、早々に退散した。

横浜まで戻り、病院に寄ってリハビリを受けてから帰宅した。