外苑前から新橋へ

昼前から外出。
まず外苑前のトキ・アートスペースでアーティスト・ブック展を観る。50〜60人のグループ展(9割は女性)。50年代生まれから80年代生まれと、作家さんの世代がたいへん幅広い。これだけの人数の参加を募るのは大変な動員力で、その点には敬意を表するが、個々の作品の印象は薄まってしまった感がある。作品の質にも若干バラツキがあり、自分の慰めのためだけではアートとはいえないというような感想を抱くものもあった。少人数の展示で、一人ひとりをじっくり見たい気がした。

新宿御苑前の PLACE M で水谷幹治作品展"COLD SUN"を観る。露出時間などに何か特別なことをしているのか、コントラストが強調されているため、日常的であるはずの景色が非現実的なものに転換されている。不思議な光景だ。

併設されている書店(出版社)蒼穹舎で雑誌「リア」のバックナンバーを数冊購入。精神科医の方(名前を失念)の文章に牛腸茂雄が画を付けた、画文集『扉を開けると』があったが、手の出ない値段だった。南陀楼綾繁氏の『ナンダロウアヤシゲな日々』を置いているので、店の人に雑誌「スムース」のバックナンバーもあるかと尋ねると「個人的には愛読してますが、ここの客層とは少し合わないので・・・」との返事。これは残念だったが、それでも狭いのに美術・写真関係を中心に品揃えが充実しており、大変好ましいスペースだ。的確な選択眼ゆえだろう。これから時々寄ってみることにしたい。横浜にもこういう店があると好いのだが・・・

神保町に廻り、T書店でしばらく息抜き。今日の話題は自民党総裁選。麻生候補がまたひどい失言をした。谷垣候補が3人の中では最も正直そうだが、消費税率引き上げの前にやることがあるだろう。どうして安部候補の人柄が良いと評価されるのか分からない、等々。昨日発売の月刊「現代」の立花隆論文について話していると、実際に南原繁全集を求める客が現れるところが、いかにもこの店らしい。

茅場町のタグチ・ファインアートで、韓国の造形作家 kim taek sang(キム・テクサン)の日本初の個展を観る。アクリル絵具を満たした小型プールにキャンバスを浸し、次第に絵具を蒸発させていく手法によって、その過程の時間そのものを定着した作品。赤い絵具のグラデーションが、透明感を湛えて、瑪瑙の断面のように美しい。それに、どことなく水墨画の系譜を想起させる。「やはり東洋の人だなあ」と親近感を覚える。夕方からのレセプションに顔を出せないのが残念だった。

京橋に足を延ばし、ツァイト・フォトサロンのオノデラユキ作品展「オルフェウスの下方へ」と、ギャラリー東京ユマニテの企画展「馬場彬に捧ぐ」を観る。同じビル内のギャラリー寺下で、村上友晴の初期の油彩小品(珍しくキャンバス)を発見する。前の所有者が奇妙な額装を施してしまったようだが(保管のことを考えればやむを得ないが)、作品自体は素晴らしいので、念のため画廊主に値段を訊いてみると、もはや全く手の届かない水準になっていることがわかり、すっかり打ちのめされる。

よろめきながらも辛うじて地上に這い上がり、ふと上空を見上げると、中央通りのビルの谷間越しに、深く澄みきった青空と美しいうろこ雲が見える。気を取り直して再び歩き始める。銀座1丁目のギャラリーをいくつか訪れ、続いて5丁目で開かれている若手日本画家6人のグループ展を観る。1人あたり7〜8点は展示されていたため、各作家さんの方向性の違いなどがわかり、なかなか見応えがあった。そこからさらに8丁目にかけてハシゴし、新橋駅から帰宅。

茅場町から新橋まで、2時間半ほど歩いたことになる。気温は少し高めだったが、乾燥した秋の風が気持ちのよい一日だった。道中のお供に川本三郎村上春樹論集成』を携えていったが、帰りの電車では、もっぱら夕映えの空と雲を眺めていたので読書はあまり捗らなかった。